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1997/8
平成8年度教科書検定の概要

平成8年度教科書検定の概要

教科書検定とは

教科書は、全国の全ての小・中・高等学校で、授業の中心として使われる教材です。
検定は、教科書が、子どもの発達段階に応じ、教育的な配慮がいきとどいたものになるよう、文部大臣が教科用図書検定調査審議会の専門的な判断に基づいて行っているものです。
検定にあたっては、i)教科書の内容が中立・公正で、ii)内容に誤りや不正確なところがなく、iii)教科書の内容があまりにも難しすぎたりやさしすぎるものとならない、などの観点から行っています。
平成8年度の教科書検定結果の概要
平成8年度は、平成10年度から使用される高等学校の主として低学年用教科書の検定を行いました。全部で365冊の図書が検定に申請され、358冊が合格しました。以下、教科、種目別の検定実施結果と、個別の検定意見など、報道などで話題にのぼったものの中から、いくつかのものを紹介します。
1.教科、種目別の検定実施結果

                区 分
   教科・種目
申請点数 合格 不合格
国語 国語I 27 27
国語表現
現代語
31 31
地理歴史 世界史A
世界史B
日本史A
日本史B
地理A
地理B
地図
35 35
公民 現代社会 15 15
倫理
政治・経済
29 29
数学 数学I 24 24
数学A 23 23
47 47
理科

物理IA
物理IB 13 13
化学IA
化学IB 14 14
生物IA
生物IB 13 11
地学IA
地学IB
62 60
保健体育 保健体育
芸術

音楽I
美術I
工芸I
書道I
18 17
外国語 英語I 48 48
オーラル・コミュニケーション A 15 15
オーラル・コミュニケーション B 17 17
80 80
家庭

家庭一般
生活技術
生活一般
食物
18 14
農業 農業基礎
農業情報処理
工業 工業基礎
機械製図
工業数理
情報技術基礎
機械工作
機械設計
電子機械
電気基礎
プログラミング技術
電子基礎
16 16
商業 流通経済
簿記
情報処理
計算事務
文書処理
マ−ケティング
23 23
合計 365 358

(注)商業のマーケティング1点は昨年度不合格本の再申請。

2.平成8年度検定において報道で話題になった事例

i)は申請図書の記述
ii)は検定意見の趣旨をまとめたもの
iii)は見本の記述
世 界 史

[従軍慰安婦]
i) 日本軍は朝鮮や台湾などから女性を従軍慰安婦として戦場におくったが、これが現在、国際的な問題となっている。
ii) 従軍慰安婦への日本軍の関与については、現時点での調査研究状況を踏まえて、誤解のないよう記述を工夫していただきたい。
iii)朝鮮や台湾などから従軍慰安婦として戦場におくられた女性もおり、このことは現在、国際的な問題になっている。

[戦後補償]
i) アジア諸国から日本の戦争責任や戦後補償などの問題が提起され、重大な外交問題に発展した。
ii) 国家間における賠償は解決済みとされており、問題となっているのは、個人の請求権に基づいての主張である点に配慮していただきたい。
iii)すでに国家間では解決済みであるが、日本の戦争責任や戦後補償について、アジアの諸国民からあらたに問題が提起されている。

[酸性雨]
i) 工場、発電所、自動車、家庭から大気中に放出される硫黄酸化物、窒素酸化物は大気中のpH濃度を高め、酸性雨となって大規模に森林を死滅させている。ヨーロッパでは、国境をこえて酸性雨の被害が全域におよんでいる。
ii) 森林の死滅の原因を酸性雨に特定するのは、学説状況に照らして断定的に過ぎるので表現を工夫していただきたい。
iii)工場、発電所、自動車、家庭から大気中に放出される硫黄酸化物、窒素酸化物は大気中のpH濃度を高め、酸性雨となる。ヨーロッパでは、国境をこえて酸性雨などによる被害が全域におよんでいる。

日 本 史

[リットン調査団]
i) リットン調査団は、中国や満州の実情や満州国建国の推移を調べ、満州事変は日本の侵略行為であると報告した。
ii) リットン報告書の内容を踏まえて記述を再考していただきたい。
iii)リットン調査団はその報告書で、満州事変を日本の侵略行為とは明記しなかったが、日本の自衛権の発動とは認めず、中国人の自発的な独立運動によるものでもないとした。

[南京事件]
i) 南京占領のさい、日本軍は投降兵・捕虜をはじめ中国人多数を殺害し、略奪・放火・暴行をおこない、南京大虐殺として国際的な非難をあびた。死者の数は戦闘員を含めて、占領前後の数週間で10数万人に達した。
ii) 南京事件の犠牲者数については、種々の議論がなされていることを踏まえて、記述を再考していただきたい。
iii)そのさい、日本軍は投降兵・捕虜をはじめ中国人多数を殺害し、略奪・放火・暴行をおこない、南京大虐殺として国際的な非難をあびた。死者の数は戦闘員を含めて、占領前後の数週間で少なくとも10数万人に達したと推定される。

[皇太子]
i) この年1月はじめには昭和天皇が没し、皇太子明仁が即位して元号が平成と改められた。
ii) 皇太子の表記として教育的配慮に欠ける。
iii)この年1月はじめには昭和天皇が没し、皇太子明仁親王が即位して元号が平成と改められた。

地 理

[領土問題]
i) 日本の場合、北方領土(歯舞諸島、色丹・国後・択捉の島々)問題、竹島問題、尖閣諸島問題をかかえている。
ii) 我が国の領土問題について学習する地理においては、尖閣諸島問題を北方領土問題及び竹島問題と同列に扱うことは不適当であるので記述を工夫していただきたい。
iii)日本の場合、北方領土(歯舞諸島、色丹・国後・択捉の島々)や竹島の領土問題がある。
その他、尖閣諸島にみられるような日本への領海侵犯などの問題がある。

[北方領土]
i) 日本は、北方領土を固有の領土であると主張し、ソビエト連邦を引き継いだロシア連邦に返還を求めている。
ii) 北方領土は我が国固有の領土であることを的確に記述する必要がある。
iii)北方領土は日本固有の領土であり、日本は、ソビエト連邦を引き継いだロシア連邦に返還を求めている。

[ODA]
i) ODAには、国際協力事業団の青年海外協力隊による技術援助もふくまれ、隊員は多くの国で活躍している。しかし、資金援助は、工事の受注など日本の利益につながるものも多く、現地の貧しい人々のために役立っているのか疑問視する声もある。
ii) 日本のODAの現状を踏まえて、誤解のないように表現を工夫していただきたい。
iii)ODAには、国際協力事業団の青年海外協力隊による技術援助もふくまれ、隊員は多くの国で活躍している。日本のODAは、おもに東アジア・東南アジア諸国にむけられ、道路・ダム・学校など公共性の高い施設の整備を中心に成果をあげてきた。また、工場の環境対策への援助も行っている。

現代社会

[自衛隊]
i) 現に自衛隊という軍事組織が存在する以上、日本でも、自衛隊に対する文民統制は貫かれなければならない。
ii) 自衛隊の性格について誤解を招くおそれがある。
iii)現に自衛隊という組織が存在する以上、日本でも、自衛隊に対する文民統制は貫かれなければならない。

政治・経済

[武器輸入]
i) また、日本が、最近では世界でも有数の武器輸入国になっていることも、問題とされている。
ii) 我が国が有数の武器輸入国になっていることについて、誤解のないようにしていただきたい。
iii)また、日本は、国内の武器生産のありかたとも関連し、最近では世界でも有数の武器輸入国となっている。

Q&A

Q: 今回の検定では、家庭科の教科書で不合格になったものがあると聞いていますが、その理由を教えてください。

A: 平成8年度の教科書検定では、高等学校家庭科については、全体で18点申請され、このうち家庭一般3冊、生活一般1冊については不合格となりました。
 学習指導要領においては、家庭科では、家庭生活の各分野に関する基礎的・基本的な知識と技術を習得させ、家庭生活の意義を理解させるとともに、主体的・実践的な態度を育てることなどを目標に、家庭の機能と家族関係、家庭の経済生活、乳幼児の保育、などを取り扱うこととしています。しかしながらこれらの図書は、上記学習指導要領に示されている目標や内容を踏まえた記述がされていなかったり、不十分なところが多くみられ、更には不正確な記述も非常に多かったことから不合格と判断されたものです。

Q: 教科書検定は、どのような手続で行われるのですか。

A: 教科書検定の申請がなされた図書は、大学の教授など専門の学識経験者の集まりである教科用図書検定調査審議会で、記述の内容が学界状況等に照らし、欠陥があるか否か慎重に審議され、合否の判定が行われます。
 ただし、必要な修正を行った後に再度審査を行うことが適当である場合には、合否の決定が留保され検定意見を通知することになります。検定意見の通知を受けた者は、検定意見に従って修正したものを提出し、これについて審議会で審査が行われ、合否が決定されます。

Q: 学校で教科書が使用されるまでの流れを教えてください。

A: まず、民間の教科書発行者により、数年をかけて図書が著作・編集されます。その図書について文部省が検定を行い、検定に合格した図書が、学校で教科書として使用される資格を与えられます。 翌年度、検定を経た教科書の中から、教育委員会などで、どの教科書を使用するか調査研究を行い、8月までにその地域、学校に最もふさわしい教科書を採択します。採択された教科書は、教科書発行者及び供給業者が製造、供給を行い、次の年の4月から各学校で使用されます。

Q: 1冊の本が検定に合格するまでに、どのくらいの人が審査をするのですか。

A: 検定に申請された図書は、まず、1冊につき、3人の調査員(全国の学校の先生や大学の教授・助教授など)と文部省の教科書調査官による調査を受けます。そしてその調査結果を教科用図書検定調査審議会に報告します。審議会では、それぞれの種目ごとの専門の委員が、自らの調査に加え、報告された調査結果も参考にして調査・審議を行い、検定の決定を行います。
 このように、検定の決定までの間にたくさんの専門家が、慎重に調査審議を行っています。

Q: 教科書検定の結果を公開していると聞きましたが?

A: 文部省では、国民の教科書に対する関心に応え、教科書への信頼を確保するとともに、教科書検定への一層の理解に資するため、平成3年度から、申請図書の公開及び検定意見の概要の公表を行っています。平成9年度は、6月下旬から9月上旬にかけて、全国6か所(秋田、東京、滋賀、静岡、鳥取、福岡)で行うこととしています。

お問合せ先:文部省初等中等教育局教科書課(03-3581-4035)

(初等中等教育局教科書課)
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