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発表日  : 4月4日(木)

タイトル : 環境負荷低減型情報通信システムの普及方策に関する調査研究〜報告書〜…4






3−2 テレコミューティングの環境負荷低減効果
1)効果計量の考え方
  前項で想定したテレコミューティングの環境負荷低減効果を定量的に試算し
 た。
  全国を対象に2010年時点で、想定した規模と内容をもつテレコミューテ
 ィングが普及した場合について、環境負荷の増加分と減少分を計量しその差分
 をもって効果と考える。
  また、LCAの考え方を取り入れ、システム、サービス、製品の建設・製造、
 運用・使用の各段階の環境負荷を計量の対象として考慮した。なお、廃棄段階
 の環境負荷については、2010年時点での廃棄のプロセスの不確定性が大き
 く、また利用可能な既存のデータも乏しいことから、今回の計量の対象外とし
 た。

1.環境負荷指標
  環境問題は非常に多様であるため、環境負荷を定量的に表す指標は多数存在
 する。例えば、地域的な大気汚染問題を対象とするならば、各種発生源からの
 大気汚染物質(NOx等)の発生量やその環境濃度が指標になり、また、有害
 物質の越境移動問題を対象とするならば、各種有害物質の越境交易量等が指標
 となる。
  この中で、本調査研究では、次の2つの指標を環境負荷の指標とした。
   ・最終エネルギー消費量(単位:J)
   ・CO2排出量(単位:t−C[炭素換算t])
  これらの指標は、共に総合的な環境負荷指標である。最終エネルギー消費量
 は、多くの環境負荷をもたらす活動の規模をよく代表する指標であり、地域的
 大気汚染問題や水質汚濁問題等においても環境負荷の代理指標として有用であ
 る。また、省エネルギーの観点からも最も包括的な指標である。CO2排出量
 は、地球温暖化問題の代表的指標であり、地球規模の環境負荷として適切な指
 標である。

2.環境負荷の低減要素
  テレコミューティングによる環境負荷の低減要素については、次の3種類の
 要素を計量の対象に含めた。これらの要素は、その規模がある限界点(クリテ
 ィカルマス)に達しないと、環境負荷低減効果を発現しない性格をもつが(例
 えば、通勤客が1日10人減っても通勤列車の本数は減らないであろう)、今
 回の試算における設定では、何れの要素もその限界点を超すものとして扱う。

 (1)通勤・出張・業務移動の代替
    テレコミューティングにより、本来のオフィスへの通勤や、出張や業務
   移動に伴う交通機関(自動車、鉄道)の利用が削減される。この削減分の
   交通量に相当する環境負荷の低減分を対象とする。この分については、交
   通機関の運用分についてのみ対象とし、交通機関の製造分や、道路、鉄路
   等の交通関連インフラの建設、運用の分については、対象外とした。

 (2)本来のオフィスに不在の分
    テレコミューティングにより、本来のオフィスでの勤務量が減少するに
   伴い、オフィスのエネルギー消費(照明、空調など)などの環境負荷が低
   減する分を対象とする。
    この分は、運用分についてであり、建設分については勤務量の減少に伴
   う既存オフィスの取り壊しまではないものとし対象外とした。また、サテ
   ライト、スポットオフィスを利用するテレコミューティングにおいては、
   勤務場所の違いによるオフィスの運用分の環境負荷に大きな差は無いもの
   と考え、この分を計量対象外とした。
    なお、この環境負荷低減効果を有効に発現させるためには、テレコミュ
   ーテンング導入後に、照明、空調などのきめ細かな管理が必要である。

 (3)オフィス増築の不要分
    本試算で採用した労働省の就業者数推計によると、現在から2010年
   に向けて総就業者数は横ばいながら、情報関係労働者は産業のソフト化、
   情報化の流れの中で300万人以上増加するものとしている。この増加分
   については、現状のままであれば、オフィスに勤務するものと考えられ、
   オフィスの増築の必要がある。
    これに対し、在宅勤務が普及すればこのオフィス増築の一部あるいは全
   部が必要なくなる。在宅勤務についてこの増築の不要分に相当する環境負
   荷の低減を計量対象とする。
    この分は、建築分についてであり、その運用分については、(2)の計
   量の対象となっている。

3.環境負荷の増加要素
 (1)情報通信ネットワークの利用
    情報通信ネットワークの建設、維持・運用に係る環境負荷を、想定した
   テレコミューティングに必要な情報伝送量に応じて負担する分を対象とす
   る。この負担分を決めるための考え方は2−2に示したとおりである。

 (2)テレコミューティング用施設に伴う増加分
    環境負荷低減要素の(2)に対応した環境負荷増加要素で、在宅勤務の
   場合、在宅時間が伸び、自宅でのエネルギー消費(照明、空調など)など
   の環境負荷が増加する分を対象とする。この分は、運用分についてであり、
   建設分については在宅時間の増加に伴う増築まではないものとし対象外と
   した。
    また、在宅勤務以外の形態のテレコミューティングにおいても、本要素
   に対応する環境負荷増加要素を考えることができるが、勤務場所の違いに
   よるオフィスの運用分の環境負荷には大きな差は無いものと考え計量対象
   外とした。

 (3)増加機器の製造・運用
    テレコミューティングを行うために増加した機器につき、その製造、運
   用に係わる環境負荷を対象とする。実際には、在宅勤務の場合に自宅で用
   いるPC、及び出張・業務移動の代替を考えるときのTV会議システムを
   対象とした。サテライトオフィスとスポットオフィスの場合についても、
   機器の増加は考えられるが、テレコミューティング分に特定した増加分の
   想定が困難なことから、今回の計量対象からは外した。

4.主要な前提及び設定
  以上に述べてきた以外に、試算に大きな影響を及ぼす主要な前提及び設定は
 次のとおりである。

 (1)通勤距離の削減率
    在宅勤務、サテライトオフィス勤務、スポットオフィス勤務による通勤
   距離の削減率については、各々、100%、50%、25% とした。

 (2)全国の情報伝送量の伸び
    2010年における全国の情報伝送量(情報通信ネットワークの環境負
   荷を分担する際の分母となる量)は現在(1994年)の約20倍とした。
    この想定は、図3−2に示すように、加入電話、FAX、ISDN、パ
   ソコン通信等を含むパーソナルメディアの発信情報量(各メディアの情報
   発信者が1年間に送り出した情報の総量)が、指数関数的に伸びており
   (郵政省資料)、過去6年間(1988〜1993年度)のデータを用い
   指数回帰により将来見通しを得ると、2010年度の情報量は、現在(1
   993年度)の約20倍になることを参考にして行った。

図3−2 2010年度時点の総情報流通量の見通し(省略)

5.環境負荷の計量方法
  環境負荷の計量方法は、基本的には環境負荷に係わる活動に、単位活動量当
 たりの環境負荷量(環境負荷の原単位)を乗じて環境負荷を求める原単位法を
 用いる。また、建設、製造分の環境負荷については、産業連関表を用いて誘発
 される環境負荷を求める方法を用いた。
  個々の要素の計量方法、及び使用した主なデータ、パラメータの出所、導出
 方法等についての詳細は資料1に示す。

2)計量の結果
  以上の試算の結果得られた、2010年に広くテレコミューティングが普及
 することによる環境負荷の低減効果を総括する表を、表3−2から表3−5に
 示す。


  表3−2 テレコミューティングの環境負荷低減効果(ケース1)
指標:最終エネルギー消費量                 (単位:10^14J)

在宅勤務 サテライト
オフィス
勤務
スポット
オフィス
勤務
出張・業務
移動の代替
合計
環境負荷低減要素 −235 −9 −15 −460 −719
 
通勤・出張・業務移動の代替 −43 −9 −15 −460
本来のオフィスに不在の分 −140
オフィス増築の不要分 −52
環境負荷増加要素 +84 +0.3 +1 +17 +102
 
情報通信ネットワークの利用 +1 +0.3 +1 +11
テレコミューティング用施設
に伴う増加分
+62
増加機器の製造・運用 +21 +6
合計 −151 −9 −14 −443 −617
注1 単位^14は14乗を表します。
注2 *で示した部分は、定量化が困難であったり、定量化の前提の不確定性が
  大きいため、試算の対象から外したもので(p.14〜152.の(2)
  (3)及び3.の(2)(3)参照)、0であることを意味しない。
  総計の617×10^14Jは、東京ドーム約1.4杯分(159万kl)
  の原油に相当する。


   表3−3 テレコミューティングの環境負荷低減効果(ケース2)
指標:最終エネルギー消費量                    (単位:10^14J)

在宅勤務 サテライト
オフィス
勤務
スポット
オフィス
勤務
出張・業務
移動の代替
合計
環境負荷低減要素 −830 −33 −25 −1,140 −2,028
 
通勤・出張・業務移動の代替 −170 −33 −25 −1,140
本来のオフィスに不在の分 −540
オフィス増築の不要分 −120
環境負荷増加要素 +322 +1 +2 +42 +367
 
情報通信ネットワークの利用 +3 +1 +2 +27
テレコミューティング用施設
に伴う増加分
+240
増加機器の製造・運用 +79 +15
合計 −508 −32 −23 −1,098 −1,661
注1 単位^14は14乗を表します。
注2 *で示した部分については、表3−2と同様。
   総計の1,661×10^14Jは、東京ドーム約3.8杯分(429万kl)
  の原油に相当する。


   表3−4 テレコミューティングの環境負荷低減効果(ケース1)
指標:CO2排出量                      (単位:10^3t−C)

在宅勤務 サテライト
オフィス
勤務
スポット
オフィス
勤務
出張・業務
移動の代替
合計
環境負荷低減要素 −531 −19 −32 −900 −1,482
 
通勤・出張・業務移動の代替 −91 −19 −32 −900
本来のオフィスに不在の分 −320
オフィス増築の不要分 −120
環境負荷増加要素 +193 +1 +3 +38 +1,482
 
情報通信ネットワークの利用 +2 +1 +3 +26
テレコミューティング用施設
に伴う増加分
+150
増加機器の製造・運用 +41 +12
合計 −338 −18 −29 −862 −1,247
注1 単位^3は3乗を表します。
注2 *で示した部分については、表3−2と同様。
   総計の1,247×10^3t−Cは、1990年度の279万世帯分
  (ほぼ神奈川県の総世帯数に匹敵)の家庭からのCO2排出量(発電所排
  出分を含む)に相当する。

   表3−5 テレコミューティングの環境負荷低減効果(ケース2)
指標:CO2排出量                         (単位:10^3t−C)

在宅勤務 サテライト
オフィス
勤務
スポット
オフィス
勤務
出張・業務
移動の代替
合計
環境負荷低減要素 −1,830 −70 −53 −2,400 −4,353
 
通勤・出張・業務移動の代替 −350 −70 −53 −2,400
本来のオフィスに不在の分 −1,200
オフィス増築の不要分 −280
環境負荷増加要素 +747 +3 +4 +94 +848
 
情報通信ネットワークの利用 +7 +3 +4 +65
テレコミューティング用施設
に伴う増加分
+580
増加機器の製造・運用 +160 +29
合計 −1,083 −67 −49 −2,306 −3,505
注1 単位^3は3乗を表します。
注2 *で示した部分については、表3−2と同様。
   総計の3,505×10^3t−Cは、1993年のニュージーランド一
  国のCO2排出量の約40%に相当する。



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