発表日 : 4月4日(木)
タイトル : 「環境負荷低減型情報通信システムの普及方策に関する調査研究会」の報告(概要)
郵政省では、国民生活や事業活動において情報通信を導入し、あるいは積極的
に活用することにより、環境負荷の大幅な低減が可能となる活動を抽出し、その
環境負荷低減効果を評価する手法の基本的考え方を提示するため「環境負荷低減
型情報通信システムの普及方策に関する調査研究会」(座長:石黒一憲東京大学
法学部教授)を平成7年11月から計5回開催してきたところですが、このたび、
報告書が取りまとめられました。
同報告書では、情報通信により国民生活や事業活動のスタイルが変革された仮
想的社会の一例として「テレコミューティングが広く普及した社会」を取り上げ、
情報通信の活用による環境負荷低減効果を定量的に評価するとともに、今後の検
討課題、環境負荷低減効果のある情報通信システムの普及促進について提言を行
っています。
報告書の概要は別紙のとおりです。
連絡先:通信政策局政策課
電 話:03−3504−4787
別 紙
「環境負荷低減型情報通信システムの普及方策に関する調査研究会」報告の概要
情報通信は国民生活や事業活動そのものに密接に結びつき、あらゆる経済社
会活動の基盤としての役割が急速に高まってきている。これに伴い、情報通信
の利用が環境問題に対しても大きな影響を与えることが想定される。
こうした中、環境負荷の低減に資する情報通信システムの普及を図る観点か
ら、国民生活や事業活動において、情報通信を積極的に活用することで、環境
負荷の大幅な低減が可能となる活動を抽出し、その環境負荷を評価する手法の
基本的な考え方を提示することとした。
そこで、情報通信により国民生活(ライフスタイル)が変革された仮想的社
会の一例として「テレコミューティングが広く普及した社会」を取り上げ、情
報通信の活用による環境負荷低減効果を定量的に評価した。
(1)LCAの概要
LCA(ライフサイクルアセスメント)は、システム分析の一手法であり、
工業製品、技術等が環境や資源などへ与える負荷(資源消費量、エネルギー
消費量、CO2 排出量、大気及び水質汚染物排出量、廃棄物量等)につい
て、原材料採掘から廃棄・リサイクルといったライフサイクル全般にわたり、
定量・評価しようとするものである。
(2)情報通信による環境負荷
情報通信による環境負荷は、情報通信ネットワークとそれに接続された情
報通信機器及びそれらを収容する建物等構造物から発生する。
情報通信ネットワークは各種の情報通信システムが共用するものであるこ
とからその環境負荷を個々のシステムに配分する考え方が必要となる。また、
その環境負荷を利用者に配分する方法については、次式のように伝送情報量
に距離を乗じて得た指標に比例して配分した。
(利用者の伝送情報量)×(伝送地点間距離)
f=E× −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Σ(県間、県内毎のネットワークの年間情報量×県間距離)
県間、県内
f;利用者が負担すべき環境負荷
E;情報通信ネットワークの年間総環境負荷
(1)テレコミューティングの定義
テレコミューティングは、一般的には代替する交通の目的を「通勤」に限
っているが、ここでは業務目的の移動の代替も含め、本調査研究での検討対
象範囲という意味で、「被雇用者が、情報通信手段により、通勤、または業
務上の移動を代替していること。」とした。したがって、1.在宅勤務 2
.サテライトオフィス勤務 3.スポットオフィス勤務 4.出張・業務移
動の代替を検討対象とした。
(2)テレコミューティングの普及想定(2010年時点)
テレコミューティングの規模は、テレコミューティングの就業量とし、情
報関連職種(専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者)
の被雇用者が主たる対象となった。テレコミューティングの規模及びその内
容の変化による環境負荷の変化を試算で捕らえるため、次の二つのケースを
設定した。
職業別区分
|
テレコミューティング就業量想定
|
ケース1
|
ケース2
|
普及想定
(%)
|
実数
(万人年)
|
普及想定
(%)
|
実数
(万人年)
|
専門的・技術的職業従事者
|
10
|
111
|
30
|
334
|
管理的職業従事者
|
20
|
49
|
50
|
122
|
事務従事者
|
20
|
247
|
50
|
618
|
上記以外の職業従事者
|
0.3
|
12
|
1.6
|
59
|
総数
|
6.6
|
419
|
17.9
|
1,132
|
TV会議システムの導入量
|
20万端末
|
50万端末
|
(3)テレコミューティングの環境負荷低減効果
2010年時点で想定した規模と内容をもつテレコミューティングが普及
した場合の環境負荷の増加分と減少分の差分をもって環境負荷低減効果とし
た。
また、LCAの考え方を採り入れ、システム、サービス、製品の建設・製
造、運用・使用の各段階の環境負荷を計量の対象とした。
ア 環境負荷の低減要素
1.通勤・出張・業務移動の代替(交通機関の利用の削減分)
2.本来のオフィスの不在分(照明・空調等のエネルギー消費減少分)
3.オフィス増築の不要分
イ 環境負荷の増加要素
1.情報通信ネットワークの利用(情報通信ネットワークの建設、維持・
運用の増加分)
2.テレコミューティング用施設に伴う増加分(在宅勤務による照明・空
調等のエネルギー消費増加分)
3.増加機器の製造・運用(テレコミューティングを行うために増加した
機器の製造、運用に係る増加分)
(4)計量結果
|
ケース1
|
ケース2
|
エネルギー消費
(10^14J)
|
CO2 排出量
(10^3t−c)
|
エネルギー消費
(10^14J)
|
CO2 排出量
(10^3t−c)
|
環境負荷低減要素
|
−719
|
−1482
|
−2028
|
−4353
|
環境負荷増加要素
|
+102
|
+235
|
+367
|
+848
|
合計
|
−617
|
−1247
|
−1661
|
−3505
|
注 ^NはN乗を表す。
(1)テレコミューティングの環境負荷低減効果の評価
計量結果を最近(1994年度)及び今後の最終エネルギー消費量、CO2
排出量と比較すると次表のとおり。
|
ケース1
|
ケース2
|
エネルギー消費
(10^14J)
|
CO2 排出量
(10^3t−c)
|
エネルギー消費
(10^14J)
|
CO2 排出量
(10^3t−c)
|
環境負荷低減効果合計
(1994年度実績比率)
(2010年度見通し比率)
|
−617
(0.42%)
(0.36%)
|
−1247
(0.39%)
−
|
−1661
(1.1%)
(0.96%)
|
−3505
(1.1%)
−
|
例示
|
東京ドーム約
1.4杯分
(159万Kl)
の原油に相当
|
279万世帯分
(神奈川県の総
世帯数)分の
CO2排出量
|
東京ドーム
約3.8杯分
(429万Kl)
の原油に相当
|
ニュージーランド
一国の40%分の
CO2排出量
|
注 ^NはN乗を表す。
(2)今後の検討課題
ア 多様な情報通信システムへの環境負荷低減効果手法の適用
他の多様な情報通信の活用形態に関しても環境負荷低減効果を評価し
ていく必要がある。
イ 環境負荷モデルの精緻化
多様な情報通信の活用形態、国際的な情報通信の利用に対しても適用
できるよう環境負荷モデルを精緻化する必要がある。
(3)環境負荷低減効果のある情報通信システムの普及促進
ア 情報通信システムの活用が、生産性の向上、効率化等とともに、環境
問題への対策においても有効であるということの理解を広めていく必要
がある。
イ 情報通信の活用による環境負荷低減を実現するためには、併せてその
低減効果を抑える要因を抑制することが重要である。
ウ 国自らが率先して環境負荷低減効果のある情報通信システムの導入を
進め、先進的な事例を多く示すことが必要である。
エ テレコミューティング等の普及のため、制度的・政策的な支援措置を
検討する必要がある。
(4)環境負荷低減効果評価手法の確立
ア 今後、様々な環境負荷低減効果評価手法の開発をさらに進めることに
より、情報通信システムの環境負荷低減効果の測定における、一般的・
標準的な評価手法を確立する必要がある。
イ 情報通信システム導入に際し、その環境負荷低減効果の観点からその
システムを評価することができるシステムを開発する必要がある。
テレコミューティング環境負荷低減効果試算概要
1 テレコミューティング
「被雇用者が、情報通信手段により、通勤、または業務上の移動を代替してい
ること。」
1.在宅勤務 2.サテライトオフィス勤務 3.スポットオフィス勤務
4.出張・業務移動の代替
2 テレコミューティングの就業量の想定(2010年)
職業別区分
|
全就業量想定
|
テレコミューティング就業量想定
|
ケース1
|
ケース2
|
実数
(万人年)
|
構成比
(%)
|
普及想定
(%)
|
実数
(万人年)
|
普及想定
(%)
|
実数
(万人年)
|
専門的・技術的職業従事者
|
1,113
|
17.6
|
10
|
111
|
30
|
334
|
管理的職業従事者
|
244
|
3.8
|
20
|
49
|
50
|
122
|
事務従事者
|
1,235
|
19.5
|
20
|
247
|
50
|
618
|
上記以外の職業従事者
|
3,746
|
59.1
|
0.3
|
12
|
1.6
|
59
|
総数
|
6,338
|
100.0
|
6.6
|
419
|
17.9
|
1,132
|
|
|
|
|
|
|
|
TV会議システムの導入量
|
−
|
20万端末
|
50万端末
|
* 2010 年の全国就業者数は、労働省職業安定局編「労働力需給の長期展
望(雇用政策研究会報告)」による。
出張・業務移動の代替を考える場合のTV会議端末の普及は、テレコミュー
ティング就業量20人年に対し1台の割合と想定。
|
ケース1
|
ケース2
|
エネルギー消費
(10^14J)
|
CO2 排出量
(10^3t−c)
|
エネルギー消費
(10^14J)
|
CO2 排出量
(10^3t−c)
|
環境負荷低減要素
|
−719
|
−1482
|
−2028
|
−4353
|
環境負荷増加要素
|
+102
|
+235
|
+367
|
+848
|
合計
(1994年度実績比率)
(2010年度見通し比率)
|
−617
(0.42%)
(0.36%)
|
−1247
(0.39%)
−
|
−1661
(1.1%)
(0.96%)
|
−3505
(1.1%)
−
|
|
↓
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|
東京ドーム約
1.4杯分
(159万Kl)
の原油に相当
|
279万世帯分
(神奈川県の総
世帯数)分の
CO2排出量
|
東京ドーム約
3.8杯分
(429万Kl)
の原油に相当
|
ニュージーランド
一国の40%分の
CO2排出量
|
注 ^NはN乗を表す。
環境負荷低減型情報通信システムの普及方策に関する調査研究会 構成員名簿
(敬称略、五十音順)
いしぐろ かずのり
座 長 石 黒 一 憲 東京大学法学部 教授
うちやま ようじ
内 山 洋 司 財団法人電力中央研究所 研究主幹
えぐち いっぺい
江 口 一 平 運輸省運輸政策局環境・海洋課
地球環境保全企画官
おおにし たかし
大 西 隆 東京大学工学部 教授
かさはら まさあき
笠 原 正 昭 日本電信電話株式会社 理事
技術調査部長兼環境問題対策室室長
きよはら けいこ
清 原 慶 子 日本ルーテル神学大学文学部 教授
こいで ごろう
小 出 五 郎 日本放送協会 解説主幹
さとう あきお
佐 藤 昭 雄 日本電気株式会社
C&Cシステム市場開発推進本部 テレワーク専任部長
すずき かつのり
鈴 木 克 徳 環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
調整官(3〜5回)
W.A.スピンクス 学習院大学経済学部 講師
はぎわら なおろう
萩 原 直 朗 富士ゼロックス株式会社 オフィス研究開発部 部長
まつむら たかし
松 村 隆 環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
調整官(1〜2回)
みとも ひとし
三 友 仁 志 専修大学商学部 助教授
やまぞえ てつろう
山 添 哲 郎 通信機械工業会 技術部長
やまたに しゅうさく
山 谷 修 作 東洋大学経済学部 教授