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発表日  : 8月30日(金)

タイトル : 8/30付:技術試験衛星VI型(ETS−VI)通信実験最終報告書






1 郵政省は、本日、「技術試験衛星VI型(ETS−VI)実験推進会議」の
 第6回会合を開催し、平成4年(1992年)6月から通信実験計画書に基づ
 き実施してきたETS−VI(きく6号)通信実験の最終報告書を取りまとめ
 ました。

2 ETS−VIは、平成6年(1994年)8月28日に打ち上げられ、当初
 予定していた静止軌道への投入ができなかったものの、3日回帰の楕円軌道上
 で定常段階に移行した平成6年(1994年)12月半ばから通信実験を開始
 し、平成8年(1996年)7月9日の運用終了まで可能な限り多くの実験を
 実施してきました。

3 関係者の努力により、楕円軌道上で可能な限りの実験を行い、多くの実験結
 果を得ました。本最終報告書で取りまとめられた主な実験成果は次のとおりで
 す。

 (1)Sバンド衛星間通信実験では、マルチビ−ムフェ−ズドアレ−アンテナ
   の軌道上での動作確認及び同アンテナの特徴を利用した実験を行ったほか、
   スペクトル拡散方式による伝送速度可変の新しい通信方式を用いた多元接
   続に関する実験等を行い、将来の衛星間通信やマルチメディアパーソナル
   通信への応用に適することが確認された。

 (2)ミリ波帯での地上・衛星間通信実験の結果、衛星通信では、世界で最も
   高い周波数帯を使用したミリ波通信が、衛星通信のみならず、パーソナル
   衛星通信にも有効であることが確認された。

 (3)世界初の光による地上と衛星間の双方向伝送実験に成功するとともに、
   関係機関の協力のもとで米国ジェット推進研究所(JPL)との間で国際
   共同実験が実施され、貴重な実験データが得られた。

 (4)固定衛星通信実験では、楕円軌道のため、通信確立時間が極めて短い中
   で実験が実施され、Kaバンドマルチビーム及びCバンド固定通信用中継
   器が打ち上げ後の宇宙環境下で正常に動作していることが立証された。こ
   れらの技術は、通信衛星N−STARに搭載されている通信機器などに反
   映されている。

 (5)移動体通信実験では、Sバンド移動体通信用中継器及びフィーダーリン
   ク用のCバンド中継器が、打ち上げ後の宇宙環境下で正常に動作している
   ことが立証された。
    これらの技術は、通信衛星N−STARに搭載されている通信機器など
   に反映されている。

4 ETS−VIにおいて、開発・実証された技術は、現在運用されている通信
 衛星N−STARのミッション系などに反映され信頼できる衛星システムの構
 築に貢献しているとともに、将来の衛星を用いた移動体通信やパーソナル通信
 への応用をはじめ、今後の我が国の宇宙分野における技術開発に広く活用され
 るものである。

 報告書の概要は、別紙のとおりです。 

                    連絡先:通信政策局宇宙通信調査室
                    電 話:03−3504−4967


別紙
        技術試験衛星VI型(ETS−VI)通信実験
             最終報告書(概要版)

1 Sバンド衛星間通信実験結果の概要
 (1)衛星搭載機器の特性に関する実験の概要
    マルチビームフェーズドアレーアンテナ及び中継器が軌道上で正常に動
   作することを確認し、搭載アンテナのパターン及びシステム雑音温度の測
   定を実施した。 
    また、アンテナの励振振幅・位相の測定を実施し、アンテナ特性の調整
   を行った。軌道上アンテナ特性測定技術は、将来の超大型フェーズドアレ
   ーアンテナ構築に必須の技術である。

 (2)電波伝搬特性に関する実験の概要
    衛星の軌道が楕円軌道になったことを利用して高仰角での伝搬特性を測
   定した。陸上移動衛星通信に大きな障害となる建物等による遮蔽の仰角依
   存性を確認するとともに、将来の低軌道周回衛星を用いた衛星通信におけ
   る貴重なデータを取得した。

 (3)通信実験の概要
    地上に置いた疑似衛星局との間で衛星間通信の模擬実験を行い、伝送速
   度でデータ伝送、音声通信など実施したほか、周回衛星との衛星間通信で
   必要となるドップラーシフト補償についても実験を行い、将来の衛星間通
   信や低軌道周回衛星を用いた衛星通信のための技術を蓄積した。また、ス
   ペクトラム拡散方式による伝送速度可変の新しい通信方式を開発し、多元
   接続に関する実験を行った。その結果、将来の衛星間通信やマルチメディ
   アパーソナル通信への応用に適することを確認した。

 (4)衛星通信システム運用技術に関する実験の概要
    アップリンクに対する電波干渉に関する実験を行った。この干渉軽減技
   術は今後多種多様な電波が混在する衛星通信において周波数を再利用する
   ための有効な技術である。また、単一衛星による未知の電波干渉源の到来
   方向の特定を行ったのは、世界で初めてであり、この技術は将来の宇宙か
   らの電波監視に関する基礎技術である。

2 Oバンド衛星間通信実験結果の概要
 (1)衛星搭載機器の特性に関する実験の概要
    搭載ミリ波帯(Oバンド)アンテナの方向を地上コマンドにより走査し、
   搭載アンテナの指向性パターンを取得し、地上試験の性能が軌道上で維持
   されていることを確認した。また、ガリウム砒素電界効果トランジスタを
   使用したミリ波帯(Oバンド)の全固体化中継器が地上試験通りの性能を
   軌道上で維持されていることを確認した。

 (2)伝送技術・電波伝搬に関する実験の概要
    フィーダーリンク地球局と疑似衛星局との間で音声通信・データ伝送な
   どについて評価実験を行った。また、降雨時の信号の減衰特性についてデ
   ータを取得した結果、小雨程度なら同期検波による高能率デジタル通信が
   安定に行えることを実証した。このことは、ミリ波(Oバンド)通信が衛
   星間通信のみならず、パーソナル衛星通信にも有効であることを示すもの
   である。

 (3)その他
    周回衛星となったETS−VIを用いた応用実験も行われ、周回衛星と
   の通信で問題となる大きなドップラーシフトにも追従する復調技術、補償
   技術の実証を行った。

3 光衛星間通信実験結果の概要
 (1)衛星搭載機器の特性に関する実験の概要
    世界で初めての衛星搭載用光通信装置が軌道上で正常に機能することを
   確認した。また、光衛星通信装置に必要とされる補足・追尾・指向の基本
   機能が実現されていることを地上−衛星間の光回線を用いた実験によって
   確認した。

 (2)光衛星通信実験の概要
    衛星への最初のレーザ伝送実験は、平成6年12月7日の深夜に行われ、
   世界初の双方向レーザ伝送に成功した。これ以来、天候の条件が良いとき
   にレーザ伝送特性、変調・復調特性等光衛星間通信に関する基礎データの
   収集を行った。平成7年3月から同年10月にかけては、実験時間帯が昼
   間となり追尾実験及び地球の背景光の測定実験を実施した。また、多くの
   機関の協力の下で米国ジェット推進研究所(JPL)との日米共同実験が
   実現し、平成7年11月から平成8年1月まで(第1期)と平成8年3月
   から同年5月まで(第2期)の期間において共同実験を行い、貴重な実験
   データを取得した。これらの実験は、将来の本格的な光衛星間通信の実現
   へ向けた重要なステップとなるものである。

4 固定衛星通信実験結果の概要
 (1)実験項目
    ETS−VIが静止軌道に投入されなかったことにより当初予定してい
   た通信実験は出来なかったが、「Kaバンドマルチビーム」及び「Cバン
   ド固定通信用搭載機器」の基本性能評価を実施。

  ア 試験項目
    アンテナについては、指向方向の同定、パターン測定、RFセンサ系の
   動作確認。
    中継器については、入出力特性、振幅周波数特性、変換周波数帯、帯域
   内スプリアスなどの基本特性とした。

  イ 試験結果
    上記(1)の結果、各データには誤差があるものの、補正可能な範囲内
   であることが確認された。

 (2)実験の成果
    大型展開アンテナ、MMIC化サテライトスイッチを含むKaバンドマ
   ルチビーム及びCバンド固定通信用中継器が打ち上げ後の宇宙環境下で正
   常に動作していることが立証でき、技術試験衛星VI型(ETS−VI)
   での技術がNTTの通信衛星N−STARに搭載されているマルチビーム
   搭載通信機器などに反映され、信頼できる衛星システムの構築に貢献して
   いることが確認された。

5 移動体衛星通信実験結果の概要
 (1)実験項目
    ETS−VIが静止軌道に投入されなかったことにより当初予定してい
   た通信実験は出来なかったが、マルチポート増幅器等の搭載通信機器の基
   本性能評価を実施。

  ア 試験項目
    アンテナについては、パターン測定、中継器については、入出力特性、
   振幅周波数特性、変換周波数、帯域内スプリアスなどの基本特性とした。

  イ 試験結果
    アンテナパターン試験は、予測データとよく一致している結果を得た。
    中継器の測定結果については、地上データを再現しており、帯域内スプ
   リアスについても新たな発生は認められなかった。


           ETS−VIの主要諸元及び概観

            表1 ETS−VI主要諸元
項目 機能・諸元
打上時期     
打上ロケット   
衛星重量     
         
ペイロード重量  
衛星発生電力   
ペイロード電力  
姿勢制御制度   
         
設計寿命     
軌道制御制度   
熱制御系     
推進系      
         
         
通信系搭載実験機器
         
         
         
         
         
バス系搭載実験機器
         
         
         
         
平成6年8月28日              
H−IIロケット試験機            
 3,800kg (打上時)         
約2,000kg (ドリフト軌道投入時)   
   660kg以上             
約4,100W  (EOL夏至)       
約1,600W                
ロール/ピッチ:±0.05度以内       
ヨー:0.15度以内             
10年目標(衛星バス部分)(信頼度0.8以上)
東西/南北とも±0.1度以内         
能動及び受動式                
イオンエンジン(南北軌道制御用)       
触媒式ヒドラジンスラスタ           
 (姿勢制御及び東西軌道制御)        
固定及び移動体通信用機器(30/20,6/4,2.6/2.5GHz
Sバンド衛星間通信用機器(2.3/2.1GHz)
Kバンド衛星間通信用機器(26/23GHz)
Oバンド衛星間通信用機器(43/38GHz)
衛星間通信用フィーダリンク機器 (30/20GHz
光通信基礎実験装置   (0.52/0.83(波長:um)
打上環境測定装置
技術データ取得装置
ニッケル水素バッテリ
電熱式ヒドラジンスラスタ
姿勢制御系実験機器
図4 ETS−VIの概観(省略)


     技術試験衛星VI型(ETS−VI)実験推進会議構成員

   もたい  あきお
会長  甕   昭 男  郵政大臣官房技術総括審議官

   まつもと まさお
   松 本  正 夫  郵政省通信政策局宇宙通信政策課長

   てしろぎ たすく
   手代木   扶   通信総合研究所総合研究官

   おおもり しんご
   大 森  愼 五  通信総合研究所宇宙通信部長

   みずの  としお
   水 野  利 男  宇宙開発事業団計画管理部長

   なかまる くにお
   中 丸  邦 男  宇宙開発事業団軌道上技術開発システム本部
             副本部長
   いしはら すなお
   石 原   直   日本電信電話(株)技術企画部長

   なかがわ かずお
   中 川  一 夫  日本電信電話(株)ワイヤレスシステム研究所衛星
             通信研究部長

   あらい  し ん
幹事 荒 井   伸   郵政省通信政策局宇宙通信政策課宇宙通信調査室長



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