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インデックスへ ・ 通信政策


発表日  : 6月16日(月)

タイトル :  6/16付:通信・放送の融合と展開を考える懇談会中間とりまとめ





は じ め に

 本懇談会は、平成8年10月に発足し、「21世紀に向けた通信・放送の融合
に関する懇談会」報告書(平成8年6月)において整理された論点及び今後の通
信・放送の展開を視野に入れた課題について、具体的な対応の在り方につき総合
的に検討を行ってきたところである。
 前回の懇談会以降、デジタル化の急速な進展や、国境や業種を越えた競争の進
展など世界的な大競争時代を迎えている情報通信分野は、一大変革期にある。ま
た、技術革新やインターネットの急速な普及などに伴う情報通信ネットワークの
高度な利用により、現実社会の活動を補完、さらには代替しうる新しい空間が出
現しつつある。
 この様な情報通信を取り巻く環境変化を踏まえ、情報通信産業の国際化への対
応、コンテントの制作・流通環境整備、サイバー社会の展望と課題などについて
幅広い見地から議論を重ねてきた。
 本「中間取りまとめ」は、これまでの論議の過程を、第1章「通信と放送の多
面的な展開」、第2章「サイバー社会の課題と展望」として取りまとめたもので
ある。第1章は、前回の懇談会において指摘した事項を更に深めたものであり、
また、第2章は、前回以降、急速に各国で話題の対象となっているサイバー社会
の展望と課題について取りまとめた。サイバー社会は、従来の工業社会とは異な
る21世紀のフロンティアとも呼ばれている今後人類が直面する新たな世界であ
り、検討すべき課題も多い。関係省庁が連携してこれらの課題に取り組むことが
重要である。
 今回の取りまとめは、「中間取りまとめ」であり、委員の意見を一つの形に集
約したというよりも、様々な意見を網羅的に記述したものである。今後、特に、
サイバー社会の展望と課題について、国民各層からの幅広い意見なども踏まえ、
更に議論を深め、意見の集約を図っていく予定である。

第1章 通信と放送の多面的な展開
第1 情報通信分野における環境変化

 1 パラダイム変化と国際競争の進展
   21世紀を間近に控えた今日、情報通信分野は、パラダイム変化と国際競
  争の時代を迎えている。多国籍企業や国境を越えた企業活動の活発化に伴い、
  「ワールドパートナーズカンパニー」「グローバルワン」「コンサート」な
  ど、世界の大手通信事業者の国境を越えた連携(グローバルアライアンス)
  が進展している。また、放送分野においても、ニューズ社(米・豪)による
  各国の衛星放送会社への出資、TCI(米国)と住友商事によるジュピター
  テレコム(CATV)設立など、他業種への参入や国際展開が進展している。
  また、インターネットの急速な普及も、情報通信分野のグローバル化を一層
  加速している(資料1)。
   このように、情報通信分野は、国際的連携や業種を越えた相互参入が、グ
  ローバルに進展していく大競争(メガコンペティション)時代を迎えている。

 (注)グローバルアライアンスの例
   ・KDD、AT&T、シンガポールテレコム等による「ワールドパートナ
    ーズカンパニー」の設立(1993年9月)
   ・フランステレコム、ドイツテレコム及びスプリント(米)が「グローバ
    ルワン」として連携(1996年1月)
   ・ブリティッシュテレコムとMCI(米)が合併会社「コンサート」の設
    立を発表(1996年11月)
    放送分野における国際展開の例
   ・TCI(米)は、住友商事との合弁によりジュピターテレコム(CAT
    V)を設立
   ・ニューズ社(米・豪)によるBSkyB(英)、StarTV(香港)、
    JSkyB(日)等の衛星放送会社への出資


 2 デジタル革命
   情報通信分野における技術革新の進展により、デジタル化が急速に進展し
  ている。特に、現状においてコンテント流通の大宗を占める放送のデジタル
  化により、チャンネル数の増大、高画質化など国民の多様な情報ニーズを充
  足することが可能となる。また、文字、音響、画像情報等のデジタル化は、
  情報の一元的処理を可能とし、情報の加工、編集、複製が容易になる。この
  ような情報のデジタル化は、一つのコンテントを通信・放送分野に限らず、
  映画、新聞、出版、音楽等の分野をはじめとする様々な分野で相互利用する、
  ワンソース・マルチユース化を促進する。このような動向は、いわゆる「デ
  ジタル革命」とも呼ばれている現象であり、放送、映画、出版等各種メディ
  ア間の連携、再編成が進展する可能性があるのみならず、従来の人々の情報
  活動、経済社会活動を変革する可能性を有している。


 3 国家戦略としての情報通信
   情報化に関して日本と米国を比較して見ると、インターネット接続ホスト
  数・電子メールボックス数で、日本は米国の14分の1、CATV加入者数
  については5分の1、パソコンのLAN接続率は、日本が8.6%に対して
  米国は52.0%となっており、我が国の情報化は米国に大きく遅れている
  のが現状である(資料2・3)。
   米国政府は早くから情報通信高度化に向けて情報化戦略を積極的に推進し
  てきた。1992年、クリントン大統領、ゴア副大統領は、1期目の大統領
  選挙において全米をカバーする情報通信ネットワークの整備を公約し、当選
  後,HPCC計画(高性能コンピュータ通信計画)に代表されるNII構想
  を推進している。また、米国政府は全世界的衛星測位システム(GPS)、
  低軌道周回衛星通信技術(LEO)等の軍用技術の民間転用を図るなど産業
  競争力強化の方向に政策を転換している(資料4)。
   最近では、1996年2月に通信法改正を行っており、1997年2月に
  行ったクリントン大統領の一般教書演説の中では、「誰でも12歳でインタ
  ーネットに接続できる環境を実現」、「全ての病院のインターネット接続を
  促進」、「次世代インターネット開発に向けた取組」を表明するなど、イン
  ターネットを活用した基盤整備を積極的に推進する政策を明確に打ち出した
  (資料5)。
   このような取組の中で情報通信関連の新しい企業が台頭してきており、N
  ASDAQ(店頭銘柄気配自動通報システム)の時価総額上位20社中に情
  報通信関連ベンチャー企業が14社を占めるようになった。なお、我が国に
  おいては、日本店頭市場時価総額上位20社中の情報通信関連ベンチャー企
  業は4社にとどまっている。また、米国ベンチャー企業の中にはマイクロソ
  フト、インテルなど世界市場で成功を収める企業も出てきているなど、情報
  通信分野が米国の経済成長の牽引力となっている。
   我が国の取組が現状のペースで推移すれば日米の情報化格差ひいては、経
  済力の格差は、さらに拡大する可能性がある。
   また、アジアにおいても自国の経済と社会を発展させる目的で情報通信基
  盤整備に積極的に取り組んでいる国が出現している。例えば、シンガポール
  では「IT2000構想」とその実現に向けた「シンガポール・ワン計画」
  を、また、マレイシアでは、「マルチメディア・スーパー・コリドー計画」
  を推進しており、高度情報通信社会への飛躍を目指している。


第2 情報通信分野の課題と展望

 1 情報通信産業の展望
   現在、我が国の産業経済は、従来型の基幹産業が成熟し、新たな成長の牽
  引役を担う産業を欲している状況にある。
   我が国の通信・放送産業の設備投資額は、近年特に顕著な伸びを示してき
  た移動通信産業を中心に拡大を続けており、バブル期以降の日本経済を支え
  てきた。1996年度の設備投資計画額は約4.8兆円に達し、全産業約4
  4.7兆円の10.8%を占めている(資料6)。これは自動車業の約3倍
  にあたり、全産業中、電力業(約5兆円)に次ぎ、実質第2位の規模である。
   また、新聞、出版等のパッケージメディアや、直接対面によって行われて
  きた医療、教育等の分野においても、ネットワークを活用した新たなビジネ
  スの萌芽が見られる。
   今後、情報通信の高度化が進むに伴い、情報通信産業は、従来型の基幹産
  業に代わって、21世紀のリーディング産業として成長を遂げ、我が国経済
  のフロンティアとして、その拡大に大きく寄与するものと期待される。
   その中で、通信と放送はそれぞれの特色を生かしながら融合・発展してい
  くと考えられるが、放送分野においては、視聴者とともに放送文化を発展さ
  せていくマスメディアとしての総合放送の公共性と、人々の好みに応じた専
  門的な多チャンネルサービスの産業としての振興をどう調和させていくかが
  重要となる。


 2 情報通信基盤の整備等

 (1)情報通信基盤の整備
    21世紀を展望した現在、大容量・超高速・双方向のデジタル化した情
   報通信ネットワークを、社会資本としていかに早急に整備できるかが、今
   後の我が国における豊かな国民生活を実現する上での重要な鍵となってい
   る。
    「情報通信21世紀ビジョン中間報告(電気通信審議会通信政策部会、
   平成9年(1997年)4月)」(以下「ビジョン21」と言う。)にお
   いて指摘されているように、有線系と無線系、移動系と固定系のデジタル
   化された各種ネットワークインフラをシームレスに接続し、放送のデジタ
   ル化と併せた「トータルデジタルネットワーク」を早急に構築する必要が
   ある。
    その際、現行の放送インフラは、国民の日常生活に必要な基本的情報を
   提供するという重要な役割を担っており、放送のデジタル化は、国民生活
   に多大な影響を及ぼすものであることから、デジタル化が国民全体の利益
   となって普及が進展するような円滑な移行プロセスが重要であることにも
   配慮する必要がある。

 (2)国際化に対応した環境整備
    グローバルアライアンス、グローバルコンペティションの流れの中で、
   情報通信産業は今後の経済成長を牽引する重要な戦略的産業であるという
   認識の下、欧米各国では、国際戦略を構築している。
    国境を越えた市場の拡大に対応した競争環境を整備するため、WTO、
   OECD等の国際機関において取組が行われている。WTO基本電気通信
   交渉は、音声電話等の基本電気通信サービスに関し、各国が競争促進を通
   じて、料金の低廉化やサービスの多様化を図るための枠組みを確立するこ
   とを目的として開催され、1997年2月15日に合意が成立した。今後、
   各国は、本合意に基づき着実に自由化を進め、競争の一層の促進を図る必
   要がある。しかし現状においては、米国において、事業認証の取得に約1
   年1ヶ月を要した事例や、「通商政策上の懸念」という申請内容とは関係
   のない事由を理由に認証を留保するといった事例も生じている。
    今後とも世界市場の一層の自由化を促進するため、我が国において、事
   業者間の公正有効競争を確保しつつ、国際公専公接続の完全自由化による
   競争の活性化等の競争促進政策を積極的に展開するとともに、諸外国に対
   しても透明、公正かつ競争促進的な市場環境の整備について積極的に働き
   かけを行っていく必要がある。
    こうした諸外国における市場環境の整備は我が国の通信事業者にとって
   新たなビジネスチャンスが拡大することを意味する。従来、我が国はNT
   T及びKDDを中心に途上国の情報通信インフラ構築への参画、先進国の
   通信事業者への出資等を行ってきたが、米国等と比べると十分とは言えな
   い状況にある。したがって、今後とも、NTT、KDDをはじめとする我
   が国の通信事業者があらゆる事業機会を捉え、多種多様な海外投資、国際
   進出を促進すべく政府としても積極的な支援策を講じることが必要である。
    また、中軌道周回衛星(MEO)、低軌道周回衛星(LEO)を利用し
   た全世界的な衛星パーソナル移動通信サービス(GMPCS)等ボーダレ
   スに全世界をカバーするメディアも進展している。このようなメディアの
   計画には我が国の企業も積極的に参加しているところであるが、技術面の
   協調だけではなく行動規範の協調も重要な要素である。また、各国の法制
   度の整合性も必要であり、我が国としてもITUにおいて現在進行中の、
   衛星携帯電話端末の越境利用を可能とするための覚書の作成作業など国際
   的政策協調に貢献すべきである。

 (3)料金の低廉化
    今後、社会経済活動のあらゆる分野で情報通信が活用されるためには、
   通信料金の一層の低廉化を図ることが重要である。特に、マルチメディア
   時代においては、ネットワークを利用した社会経済活動が定着し、長時間
   にわたる通信が一般化すると予想されることから、従来の距離・時間に依
   存する従量制料金ではなく、定額制料金のように「量」の要素ができる限
   り少ない料金体系が望ましい。
    ただし、マルチメディア時代においては、多様な利用形態が想定される
   ことから、利用度の少ない人向けの従量制料金など、多様な料金メニュー
   が提供されることが望ましい。
   (注)「ビジョン21」では、2010年における通信料金水準として、
     20Mbpsの回線が、国内均一定額料金で、月額7800円程度で
     利用可能と試算。


 3 コンテント振興

 (1)コンテントの制作・流通環境の変革期

   ア コンテント産業を巡るメディア間の相互参入と国際的展開の進展情報
    通信によって提供されるコンテントに対するニーズの高まりとともに、
    コンテントを取り巻く環境変化が、コンテント産業分野における、メデ
    ィア間の相互参入や国際的な展開を加速している。
     米国の映画会社であるウォルト・ディズニー社は、テレビ3大ネット
    ワークの一つであるABC社を買収することにより、自社の所有する映
    像コンテントの配給網の強化を図っている。また、豪のニューズ社は、
    衛星放送、地上波、ケーブル網等のネットワークを世界に張り巡らせる
    ことにより、自社のコンテントを世界人口の3分の2までに到達させる
    ことを可能としている。

   イ コンテントのマルチユースの発生
     多メディア・多チャンネル化の進展によって、コンテントのマルチユ
    ースへの需要が増大している。最も典型的な例として、劇場映画につい
    ては、ビデオ、衛星放送、CATV放送、地上波放送等の各メディアに
    よるマルチユースが進展している。

   ウ 新聞、出版、放送等のコンテントにも新たな提供形態が出現
     新聞、出版、放送等の伝統的なコンテントにも、新たな提供形態が出
    現している。新聞各紙が、インターネットによる電子新聞の提供をはじ
    め、出版についても、CD−ROM等による電子出版も盛んである。ま
    た、放送についても、地上データ放送を利用した双方向型番組が登場し
    ている。

   エ 新たなメディアに対応したコンテントの出現
     パソコンの普及により、新たなメディアに対応したコンテントの急成
    長が遂げられ、CD−ROMタイトル市場は、平成2年度に108億円
    であったものが、平成7年度には、2,260億円となっている。この
    市場は今後、CD−ROMの7倍以上の記憶容量を持つDVD(デジタ
    ル・バーサタイル・ディスク)の普及により、更なる成長を遂げること
    が予想される。


 (2)コンテントビジネス発展のための方策

   ア 人材育成
     魅力あるコンテントを制作するためには、コンテント制作技術のみな
    らず、資質を備えた制作者が必要である。また、コンテントを国際的に
    展開していくためには、他国の言語・文化への理解など幅広い知識を有
    し、既存の枠にとらわれないような人材の育成も必要となる。
     諸外国では、公的機関や民間の資金提供により、コンテントの制作者
    育成のための専門学校等を開校し、専門教育の充実を図っている。また、
    公的機関が中心となって学生の映像コンクールを行うなど、優秀な人材
    の発掘や育成に取組んでいる。また、アジアでは、韓国が、国立大学等
    に漫画、アニメーション学科を設置するなど、政策的支援を行っている
    (資料7)。
     我が国では、諸外国に比べてコンテントに関する専門的かつハイレベ
    ルな教育機関、特に大学等の専門学部が不足している。したがって、諸
    外国の例を参考として、公的資金を活用したコンテント制作に係る人材
    育成のための専門学校等の設置について検討する必要がある。
    (注)アジア、ヨーロッパ等でも高い評価を得ているコミックについて
      は、海外の制作者育成という観点からも、人材交流や、情報交換等
      の連携を一層推進すべきである。
     諸外国におけるコンテント制作に関する人材育成施策の例
アメリカ  全米各地の主要大学約230校に映像学科が存在。また、
政府出資による映像制作助成機関として、アメリカ映画協会
が設立され、学生映画コンクールの開催、自らも映像大学院
を開設するなど人材を育成。              
イギリス  政府と産業界の共同出資により、映画テレビ学校が設立。
資金の約半分は、国民文化省から拠出。         
フランス  パリ映画高等学院を引き継ぎ、映像・音楽職業教育学院を
設立。資金の約65%を文化省から拠出。
ドイツ  連邦政府により、ベルリン映画テレビアカデミーやミュン
ヘン・テレビ映画学校等を設立。資金は連邦政府及び州政府
から拠出。また、各州ごとにも州立の専門学校が存在。
オースト
ラリア
 連邦政府により、オーストラリア映画・テレビ・ラジオ学
校を設立。資金の約90%を公的機関が拠出。
韓国
 国立大学等に漫画、アニメーション学科を設置。政府主催
による学生の作品コンクールや「漫画文化賞」等を創設。

   イ 新しいコンテント関連技術の構築
     新たなメディアに対応するコンテントの制作、利用のための基礎とな
    る技術の多くは米国製で占められている。例えば、インターネット上で
    のコンテント検索・表現技術、デジタル映像制作システム等の多くは米
    国で開発されている。これらの技術は、コンテント制作等において事実
    上の標準となることが多く、コンテントの国際展開を図る上で大きな影
    響力を有している。
     我が国においても、次世代のネットワーク環境を先取りした先進的な
    コンテントの制作につながる汎用性のある関連技術等を中心に研究開発
    を推進し、先進的なコンテントの制作環境の整備を図っていく必要があ
    る。
    (注)インターネット上でのコンテントの検索・表現技術の例
      ・検索・閲覧ソフトでは、ネットスケープ・ナビゲーター(米)、
       インターネット・エクスプローラー(米)等が日本市場に浸透
      ・擬似的にラジオ、テレビの放送型サービスが可能となる、リアル
       オーディオ、ストリームワークス等も米国製が主流

   ウ 制作資金の調達制度の確立等
     コンテント制作には、一般的に、資金調達に困難を伴う中小の零細企
    業が携わっていることが多い。
     諸外国では、公的資金を活用した助成金の交付や、投融資等の制度を
    始め、政府の優遇税制による投資会社の設立による民間資金の導入等も
    行われており、多様な資金調達方法が存在している(資料8)。米国で
    は、映画製作投資ファンドや、制作する映像に関する利用権を企画段階
    において売却する制度等が存在し、制作費の高いコンテントについても
    資金調達が可能となるような環境が整備されている。
     我が国においても、公的資金を活用した資金調達制度の整備のほか、
    収入の一部を損金経理の方法によって積み立てる準備金制度等の税制支
    援について検討するなど、個々の条件に合った多様な資金調達方法の確
    立が望まれる。
     また、コンテントの国際的な流通を活性化する方策として、例えば、
    コンテントの国際見本市への出展に対する支援等、我が国コンテント事
    業者の国際展開が促進されるような支援についても検討する必要がある。
   諸外国におけるコンテント制作に関する資金援助施策の例
アメリカ  公共放送機構が、公共放送の番組制作に対し、投資、債務
保証を実施。資金は連邦政府より拠出。
イギリス  イギリス映画協会や英国スクリーンファイナンスが映画・
テレビ番組制作に対し、助成金交付や融資を実施。両機関と
も資金の半分を政府が拠出。
フランス  国立映画センターが、映画・テレビ番組の制作に対し、助
成金交付を実施。資金は国の特別会計から拠出。また、投資
優遇税制により、映画・視聴覚産業投資会社が設立され、民
間からの資金をもとに、映像産業への投資を実施。    
ドイツ
 映画振興協会により、映画制作に対し、助成金交付、融資
を実施。資金は経済省より拠出。各州政府機関等による融資
等も存在。                      
オースト
ラリア
 オーストラリア映画委員会やオーストラリア映画投資会社
が、映画・テレビ番組制作等に対し、投資を実施。資金の大
半は政府から拠出。                  
EU
 欧州の視聴覚産業の発展を促進するために、EU MEDIAII
計画がEU理事会によって決定。映像制作に係る一部経費、制
作会社の近代化等を対象に無利子融資等を実施。資金はEU内
の公的基金から拠出。                 

   エ 権利処理の円滑化
     コンテントに係る権利処理の円滑化は、コンテント産業の発展のため、
    非常に重要である。
     最近では、デジタル化による複製・加工の容易化や、ネットワーク化
    の進展に伴い、コンテントの制作・利用に係る権利処理に関し、様々な
    新しい問題が生じている。特にマルチメディア・ソフト等の場合には、
    コンテント制作に係る権利当事者が飛躍的に増大し、権利処理がより複
    雑、かつ困難になってきている。また、我が国では、マルチユースのた
    めの権利処理ルールが諸外国と比べて未整備のため、コンテントの二次
    利用において障害が発生する場合が多い。
     コンテントの円滑な流通を促進するためには、例えば米国にみられる
    ように、マルチユースについて収益に応じて権利者にその一部が還元さ
    れるシステムを整備するなど、権利者が適正な対価を受け取ることがで
    きるよう著作者等の権利の適切な保護と、ユーザの負担行為とのバラン
    スに配慮しつつ、マルチユースを前提とした簡便な権利処理ルールの確
    立、権利情報の提供等の権利処理体制を整備する必要がある。このため、
    行政と民間とが一体となって、早急に検討を行う必要がある。


 4 ベンチャー企業の振興
   情報通信分野における急速な技術革新によって、多様なベンチャー企業が
  出現している。米国では、毎年多数のベンチャー企業が誕生しているが、情
  報通信分野のベンチャー企業がNASDAQ市場に株式公開できる確率は、
  他の分野に比べて高くなっている。また、米国の情報通信分野のベンチャー
  企業は、経済活性化の牽引車となっていると同時に、大企業から生じる失業
  者を吸収し、雇用の確保にも寄与している。ベンチャー企業が米国で多く誕
  生している背景としては、起業に対する一般的な価値観の高さ、つまり、ベ
  ンチャー・スピリットを受け入れる社会的土壌が存在することも大きい。
   我が国においても、国民の意識改革により、起業に対する価値観を高め、
  ベンチャー企業が生まれやすい環境を育てていくとともに、ベンチャー企業
  によってニュービジネスの創出、発展が図られるよう、制度的な支援を行う
  等、国家的にベンチャー企業の振興を図る必要がある。

 (1)ストックオプション制度の活用
    創業・発展期にある企業における優秀な人材確保、勤労意欲の向上には、
   ストックオプション(成功払い報酬)制度の活用が有効である。
    商法の一部改正や、情報通信分野の新規事業を対象とした法律等により、
   ストックオプション制度が導入されるので、本制度が活用され、情報通信
   分野において多数のベンチャー企業が出現することが期待される。

 (2)税制面からの支援
    米国では、個人投資家(エンジェル)を対象に一定の条件の下、キャピ
   タルゲインに対する優遇税制や、売却損の通常所得との損益通算を可能に
   する等、ベンチャー企業への投資を促進するための税制優遇措置が講じら
   れている。
    我が国においても、資金を幅広く個人投資家から調達できるようエンジ
   ェル税制の拡充等ベンチャー企業振興のための税制面での支援策を強化し
   ていく必要がある。

 (3)資金調達の円滑化
    リスクの高い創業・スタートアップ段階のベンチャー企業が、資金調達
   を円滑に行うことができるような支援を積極的に行っていくことが重要で
   ある。民間の大企業が、ベンチャー企業の初期段階に資金協力等を行った
   り、知的所有権等を対象とした担保評価手法の確立等を通じた融資の促進
   などを図っていく必要がある。また、ベンチャー企業自身の情報開示も積
   極的に進める必要がある。


 5 技術開発の推進
   情報通信技術は、今後急激な技術革新が期待される分野であるとともに、
  リヨン・サミット経済宣言において「よりグローバルな経済発展と情報技術
  による進歩は、経済成長と繁栄の原動力(エンジン)である」と述べられて
  いるように、情報通信技術の発達は、今後の高度情報通信社会を実現してい
  く上で不可欠である。

 (1)社会的環境の違い
    ベンチャー企業としてスタートしたマイクロソフト社がパソコン用OS
   の世界のシェアの約8割を占めるなど、米国企業がパソコン、インターネ
   ット関連技術分野において世界市場を席巻している(資料9)。
    また、米国では、毎年数多くのベンチャー企業が起業しており、その多
   くは成功には至らないが、社会全体が失敗を許す社会であることから、マ
   イクロソフト社のような一部の企業が結果として世界的に大成功をおさめ
   ている。
    このような現状を踏まえ、その背景とも考えられる日米の技術開発を取
   り巻く社会的環境を比較してみると、米国では独立して自分の会社を設立
   ・発展させることを希望する理工系学生が多いのに対して、我が国では既
   存の企業や組織で出世することを希望する学生が多い(資料10)。また、
   研究者の研究キャリアをみると、米国では工学部卒の研究者の7割が転職
   を経験しているのに対して、日本では研究者の8割が転職経験が無い(資
   料11)。更に、米国では研究者が自ら開発した新たな技術を活用した独
   立の会社を設立する例が珍しくないが、我が国では、終身雇用が一般化し
   ており研究者といえども経験を積むとともに、現場からマネージメント部
   門に異動する傾向にあるなど、日米間において社会的環境がかなり異なっ
   ていることがわかる。
    なお、このような問題は、技術開発を取り巻く固有の問題ではなく、我
   が国全体の問題でもある。
    我が国の技術開発力の向上を図るためには、諸外国と我が国の研究者を
   取り巻くこのような社会環境の違いを十分認識し、欧米の優れた制度や仕
   組みの積極的な導入にとどまらず、より広い視野から人材のモビリティを
   上げるよう日本の社会全体の意識を変えていくとともに、ベンチャースピ
   リットを受け入れる社会環境の構築に向けた取組が期待される。

 (2)国の研究開発
    我が国の情報通信分野の研究開発費を見ると、総額は米国の65%程度
   であるが、政府負担額は米国の30%程度である(資料12)。
    また、欧米各国とも、政府が中心となって情報通信分野の技術開発を積
   極的に進めており、米国ではHPCC計画、EUではフレームワークプロ
   グラムが実施されている(資料13)。
   このような中、日本と欧米の情報通信技術の開発力を比較してみると、1
   991年には日本が優位であったものが、1994年には日本の優位性が
   低下し、特に米国との比較では情報通信分野の日米の評価が逆転し米国優
   位に転じている(資料14)。
    このため、我が国も現在の基礎的な研究開発を積極的に推進していくと
   ともに、欧米の例などを参考に基礎研究分野において国が一層のイニシア
   ティブを発揮しうる方策について検討する必要がある。

 (3)産学官の連携等
    研究開発分野における産学官の関係をみると、米国では政府は企業に対
   して約2兆1千億円(研究開発費負担割合18%)、大学に対して約1兆
   7千億円(同68%)の研究開発費を負担するとともに、インターネット、
   GPS、低軌道周回衛星等軍事技術の積極的な民間転用が図られている。
   また、民間企業等は積極的に大学との共同研究や委託研究を実施し、大学
   への研究開発費負担割合が11.5%と多いなど産学官が密接な連携を図
   りながら研究開発が推進されている。
    これに対し我が国では、政府から大学に対する研究開発費負担割合は米
   国とほぼ同程度(約1兆円(同62%))であるが、企業に対する研究開
   発費の負担はわずか約1千億円(研究開発費負担割合1.2%)にとどま
   っている。また、民間企業は、主要な研究活動を独自に実施する傾向があ
   り、大学に対する研究開発費負担割合が3.6%にとどまっているなど、
   産学官のリンケージは米国に比べて希薄である(資料15)。
    これからの大競争時代に向けた我が国の研究開発体制の強化のためには、
   企業、大学、公的研究機関の産学官の連携の強化を早急に図る必要がある。
    また、我が国の研究開発力の強化を図るため、研究者の確保については、
   必ずしも対象範囲を日本人に限定する必要はなく、国境を越えて世界中か
   ら優秀な研究者を確保するという視点も重要になってくる。
    更に、独創的で個性的な研究者の処遇について企業として対応を検討し
   ていくことも必要である。

 (4)標準化への対応
    米国では軍用技術をはじめとした国による大規模な研究開発の民間転用
   と市場競争を通じてデファクト標準化を進めている。また、欧州では官民
   一体となって欧州標準を策定し、世界に普及させていくための取組を実施
   している。
    このような状況を踏まえて、我が国においても標準化を念頭に置いた研
   究開発を推進するとともに、企業と政府が、研究開発から得られた技術に
   ついての積極的な標準化活動の展開や、ヨーロッパで進められている地域
   的な活動に倣い、アジア・太平洋地域各国間における標準化関連情報の交
   換など標準化活動に係る協調、連携の強化を図ることが必要である。
    また、国際標準を目指したフォーラム活動に対する支援や、海外に普及
   する技術の開発を行うとともに、PHS技術の海外展開に貢献した、海外
   への普及促進支援機関(PHS MoUグループ:国内外の事業者、メー
   カー等が設立)のような組織を活用する等、政府、民間が協力して我が国
   の技術の普及を図ることが必要である。

 (5)人材育成
    大学生の理工学部への入学志願率をみると、昭和60年には24.8%
   であったものが平成6年には19.1%と減少しており大学生の理工系離
   れが進展している。
    我が国では、全分野の研究者総数57万人のうち大学に属している研究
   者は27%(15万6千人)であるが、通信・電気分野では、大学に属す
   る研究者は7.5%(1万人)と割合が低い。なお、情報通信分野に限定
   するとその割合は更に低下する(資料16)。
    技術革新の著しい情報通信分野の人材育成については、このような点も
   考慮して、幅広い視野から現在の教育システムを見直し、豊かで創造的な
   発想を備えた人材の育成を図ることが重要である。


 6 国際化への対応

 (1)我が国からの情報発信力の向上
    海外でも高い評価を得ているアニメーションやゲームソフトなどでは、
   映画、ビデオ化により海外での版権セールスで成功し、漫画本もアジア、
   ヨーロッパを中心に各国語版が刊行される等、情報発信が行われている。
   しかしながら、全体としては、我が国からの情報発信は、十分とはいえな
   い。
    また、衛星デジタル多チャンネル放送の積極的な展開等、放送の国際化
   が進展する中で、我が国の放送番組では、NHKの音声国際放送、映像国
   際放送、民放テレビ番組のアジア地域等に向けての配信等が、行われてい
   る。例えばJET(Japan Entertainment Television)計画では、衛星を
   利用して我が国の民放番組及び地方局の番組ソフトを、アジア・オセアニ
   アの10ヶ国・地域向けに、在留邦人には日本語、現地人には現地語吹き
   替えによる放送を行っている。
    しかしながら、オープンスカイポリシーのない国、宗教上の理由で道徳
   的価値についてガイドラインが厳格な国、歴史的経緯から日本語放送を禁
   止する国等、我が国から情報発信を行う上で障害となってくる規制も各国
   に存在する。
    今後、各国の文化、言語、宗教等へ配慮しつつ、映像国際放送の充実な
   ど、我が国からの情報発信力の向上を図っていく必要がある。そのための
   環境整備として、各種言語による放送番組ライブラリーの充実や、各国の
   ニーズを考慮したコンテントの制作、国際共同制作の推進等が考えられる。
   特に、映像国際放送による国際相互理解は効果的かつ重要であると考えら
   れ、英語をはじめとして、中国語など英語以外の言語による放送について
   も充実を図る必要があるが、人材の確保や経費の問題などの課題があり、
   字幕スーパーによる二カ国語化、現地での現地語化等を含めた検討が必要
   である。


 (2)我が国のアジアにおけるハブ化の推進
    インターネットの世界は、米国中心であり、世界各国のインターネット
   通信は米国に集中していることから、アジア各国から日本経由で米国との
   通信が行えるよう日本と韓国、台湾、シンガポール等との間の回線設置を
   一層促進するなど、インターネットにおけるアジアのハブ化を推進し、日
   本発着トラヒックの増大、通信料金の一層の低廉化という好循環サイクル
   を構築することが望ましい。
    ハブ化を推進するためには、通信料金の低廉化のみならず生活・物流コ
   スト等の日本全体の低コスト化も重要であり、そのための一層の規制緩和
   が望まれる。
    情報通信の国際化が急速に進展していく中、我が国産業の国際競争力の
   強化に寄与するためにも、日本をアジアにおける情報集散基地として発展
   させることが重要な課題であり、そのため、我が国とアジア・太平洋地域
   との結節点という地理的特性を有する沖縄県において、所用の財政・金融
   上の支援措置を講ずることにより、光ファイバーなどのネットワークイン
   フラの整備、この上に展開する先進的アプリケーション、コンテントの振
   興・集中等を行う「マルチメディア特区構想」を推進する必要がある。

 (3)国際協力
    現在、先進国のみならず開発途上国の多くでも通信インフラ整備プロジ
   ェクトが計画されているが、世界全体で見た場合、開発途上国を含め世界
   全体として、均整のとれた形で情報通信インフラの整備が行われることが
   重要である。
    開発途上国における情報インフラの整備はこれまで主に公的資金により
   行われてきており、我が国もこれに対して政府開発援助(ODA)による
   支援を行ってきた。しかし、近年、情報通信インフラ整備プロジェクトの
   中でBOT(Build-Operate-Transfer)方式等により、民間主導で行われ
   るものが増加している。政府としても、ODAの活用を含め、これを積極
   的に支援していくことが必要である。例えば、BOT方式等の民間主導プ
   ロジェクトを対象とする、保険の充実などの支援策を検討することも重要
   である。
    また、1995年2月に開催された「G7情報社会に関する閣僚会議」
   においては、世界的な情報インフラ整備のための原則と、その具体的行動
   としてのグローバル・インベントリー、広帯域ネットワークのグローバル
   な相互運用性、電子図書館、オンライン政府等の11の国際共同プロジェ
   クトが合意された。そのうち、例えば電子図書館プロジェクトにおいては、
   多数の市民がネットワークを通じて利用できるグローバルな電子図書館シ
   ステムの構築に向けて、各国における図書館関係の電子化計画等の調査を
   日仏のリードにより実施しているところである。今後もこのような世界規
   模の共同プロジェクトを積極的に推進すべきである。


 7 電気通信分野における消費者保護
   電気通信事業者間の競争の進展や技術革新等によって、情報通信サービス
  の高度化・多様化が急速に進展しているが、消費者からの苦情・相談は、料
  金・サービスについての情報提供に関するもの、営業活動に関するもの、迷
  惑通信やプライバシー侵害に関するものなど、多岐にわたっている。情報通
  信サービス以外の他のサービス分野では、事業者団体等の公益法人が法律に
  より指定され、苦情処理を行っている例や、電気事業法、ガス事業法等のよ
  うに国が法律により苦情の申出を受けて苦情処理を行っている例がある。サ
  ービスの高度化・多様化が著しい情報通信分野における消費者保護を図る観
  点から、法律に基づく、苦情処理・相談体制の整備について早急に検討する
  必要がある。
   また、情報通信サービスの高度化・多様化に伴い、利用者が適切な選択を
  行うためには、サービスの内容、料金、契約・解約の方法等について、利用
  者にとって正確でわかりやすい情報が提供されるための環境を整備すること
  が重要である。このため、利用者の立場にたって情報提供の在り方について
  検討を進める必要がある。


 8 情報社会教育の充実
   情報通信の高度化が進展し、社会経済生活が情報通信に大きく依存するこ
  とに伴い、「学校の情報化」(マルチメディア教育)と「情報化の教育」を
  積極的に推進する必要がある。
   米国においては、クリントン大統領が1997年2月の一般教書演説で、
  「誰でも8歳で読むことができ、12歳でインターネットに接続でき、18
  歳で大学進学の機会を得、大人は全て生涯学習できるようにしよう。」、ま
  た、「インターネットは町の広場の様な存在となり、コンピュータは全ての
  教科の先生として、また全ての文化の架け橋として各家庭に存在するように
  なる。」と表明しているように、教育改革とともに情報通信の高度化に対応
  した教育を国の重要施策として位置づけている。
   情報通信手段がいかに高度なものになろうとも、それを利用するのはあく
  までも人間である。我が国においても、情報通信を活用した学校教育の充実
  を図る(「学校の情報化」)とともに、マルチメディア社会に必要な資質を
  養うこと(「情報化の教育」)が喫緊の課題となっている。

 (1)学校の情報化
    「学校の情報化」(マルチメディア教育)とは、マルチメディア端末を
   一人一台配備することにより、個別教育、受動的ではなく能動的な学習、
   時間や場所に拘束されない学習等を可能にするものである。マルチメディ
   ア教育による、エデュケーション(教育)とエンターテインメント(娯楽)
   の要素を加味したいわゆる「エデュテインメント」により、知識偏重の教
   育から創造性豊かな教育への転換に寄与することが出来る。
    現在、小中学校へのパソコンの配備は進んでいるが、インターネットに
   接続されている学校の割合は、米国に比較して、大幅に遅れていること等
   を考慮すると、早急に全ての学校をインターネットに接続する必要がある。
   具体的には、2000年までに、全国の学校、図書館等の公共機関への光
   ファイバ網整備を推進することから、光ファイバ網整備と併せて、200
   0年までに全ての学校をインターネットに接続することを政策目標として
   推進すべきである。
    (注)日本では、何らかの形でWebページを公開している小学校は2
      .4%(568校)、中学校は4.6%(487校)(1996年
      3月末現在)。なお、日本では、インターネットに接続している小
      中学校の割合に関するデータはない。
       米国では、インターネットに接続している公立学校の割合は、1
      994年には35%であったが、1995年には、50%と急速に
      普及。

    インターネットの利用を加速化するためには、以下の施策を推進するこ
   とが望ましい。

   ア 小中学校における情報通信基盤の充実
     現在、小中学校における電話回線は、平均3本であり、インターネッ
    トに接続する場合には、そのうちの1本をインターネット用(INS6
    4)に、利用する場合が多い。
     したがって、学校のインターネットアクセス環境を改善するためには、
    サーバーの設置や校内LANの充実とともに電話回線を増設・大容量化
    する必要がある。

   イ インターネット接続料金の低廉化
     低廉かつ高速の回線を利用することにより、インターネットアクセス
    環境を改善する必要があり、学校教育におけるインターネット利用を促
    進する観点から、インターネット接続料金の低廉化が望まれる。

   ウ 教育用コンテントを充実させるための措置
     インターネット上に存在する膨大な情報の中から教育に利用可能な情
    報を探し出すことは困難であることから、有用な教育・学習情報を整理
    して提供する検索型システムを構築する必要がある。また、教育に利用
    可能な情報であっても、著作権問題がクリアされていないため、利用で
    きない場合があるので、教育用に再利用することを前提とした著作者等
    との契約の促進などを通じた教育用コンテントの充実を図る必要がある。
     更に、インターネットの利用は、受動性を高めるだけであり、創造性
    には結びつかないとの指摘がなされることがあることも考慮し、情報通
    信分野における技術革新が教育分野においてもプラスとなるよう、創造
    性を高めるプログラムの開発等を促進することが重要である。
     この他、インターネット上には、わいせつ情報、他人の誹謗中傷情報
    等の反社会的情報が流通していることから、フィルタリング・ソフトの
    活用等により、反社会的情報をブロックする必要がある。なお、反社会
    的情報のブロックの具体的方法については、情報の格付けの問題とも関
    連するため、更に詳細に検討する必要がある。

   エ 個人情報保護とオンライン結合の在り方に関する検討
     個人情報に関する条例を制定している地方公共団体の中には、個人情
    報を保護する観点から、他の機関(国又は他の地方公共団体等)とオン
    ラインで結合して個人情報を処理することを禁止、又は制限している、
    いわゆるオンライン結合の禁止・制限条項を定めているところがある。
    こうした条例を有する各地方自治体では、例えば、小中学校等の間でイ
    ンターネットを利用した情報交換が制約されるといった問題が生じてい
    る。オンライン結合の禁止・制限条項については、個人のプライバシー
    を保護するというメリットはあるが、ネットワークを活用した情報資源
    の有効活用に支障をきたす面がある。そこで、同程度の個人情報保護の
    制度を設けている地方公共団体相互間においては、個人情報のオンライ
    ン結合を認める、あるいは、個人情報保護の必要性と情報の共有化のメ
    リットを比較考慮し、特定の情報についてはオンライン結合を認める等
    の方策を検討する必要がある。
     特に、学校のクラスのホームページに児童のプロフィールを紹介し、
    個人情報保護条例違反が指摘された事例などについては、個人のプライ
    バシー保護を前提としつつ、教育のための情報の共用化や情報の有効活
    用の観点から、どの範囲であれば公開可能か等の問題について検討を進
    める必要がある。

   オ 教職課程等の充実
     マルチメディアに関する技能や知識が教師に不足している事実を改善
    するため、大学での教職課程において、マルチメディアの操作性、マル
    チメディアを利用した教育方法等を必修科目としたり、現職の教員に対
    してマルチメディアに関する知識・技能に習熟するための特別の研修を
    設けること等を検討する必要がある。

 (2)情報化の教育
    「情報化の教育」とは、マルチメディア社会において必要な資質を育成
   することである。マルチメディア社会で必要な資質とは、[1]メディア
   リテラシー(情報通信機器等を自由に操作できる能力)、[2]情報活用
   能力(情報を自由に利活用する能力)、[3]情報マナーに分類できる。
    現状は、小中学校へのパソコン配備に見られるように、「メディアリテ
   ラシー」と呼ばれる機器の操作性の訓練に重点が置かれがちであるが、今
   後は、「情報活用能力」、「情報マナー」にも重点を置くことが重要であ
   る。
    マルチメディア時代にあっては、言葉という論理を介した知性に訴える
   コミュニケーションに加え、映像や音声による感性に訴えるコミュニケー
   ションが重要になってくる。マルチメディア社会は、従来の知性重視の社
   会ではなく、知性と感性のバランスが求められる社会と言える。
    高度情報通信社会を前提とした「情報活用能力」、「情報マナー」の育
   成に着目した新たな観点からの教育プログラムを実施することが重要であ
   る。また、その一貫として、世界に向けて情報を発信する能力を高めるた
   め、英語教育の充実や国際人としての常識などを涵養する必要がある。
    「情報化の教育」は、ネットワークがボーダレスであり、個人が容易に
   情報発信が可能であるとの特性を有することから、マルチメディア社会に
   必要な資質の育成のみならず、21世紀を展望した我が国の教育に求めら
   れる個性の尊重、創造性、国際性等を育むことにも寄与することができる。
    以上の、「学校の情報化」、「情報化の教育」という、特に青少年を対
   象とした教育分野に限らず、健康で豊かな老後の生活を送るため、高齢社
   会における生涯学習分野においても図書館等を活用した情報通信への積極
   的な取組が必要である。

 (3)情報格差の是正
    高度情報通信社会においては、情報格差が社会的・経済的格差につなが
   るおそれがあることから、情報通信の高度化に対応できない人や高齢者・
   障害者等の「情報弱者」が情報通信の利便性を享受できるよう、誰でもが
   簡単に利用できる端末等の開発や、高齢者・障害者向けサービスの充実等
   の環境整備を図ることが重要である。


 9 環境問題と情報通信

 (1)地球環境問題
    5年前の1992年世界の首脳がリオデジャネイロに集結し、人類的課
   題である地球環境問題について国連環境開発会議(地球サミット)が開催
   され、21世紀に向けた環境と開発に関する人類の行動計画として「アジ
   ェンダ21」が策定された。
    この行動計画に基づき、温暖化対策やオゾン対策など様々な取組がなさ
   れてきたが、依然、地球温暖化の原因となるCO2濃度は増加傾向にある
   など問題は深刻である。主要な温室効果ガスであるCO2濃度は、産業革
   命前の280ppmから現在360ppmにまで増加し、さらに上昇中で
   あり、このまま推移すれば、2100年には気温が2度、海面が50セン
   チメートル上昇し、この結果、植生(世界の森林の1/3に影響)、乾燥
   地域の拡大、食料生産、洪水・高潮、健康に深刻な影響があると予測され
   ている(1995年国連IPCC報告)。
    一方、地球サミット後、インターネットの爆発的な普及(世界のインタ
   ーネットホスト数が5年間で約22倍に拡大)など世界のネットワーク化
   ・高度情報化が急速に進展し、情報通信は地球環境保全に多様な貢献が見
   られるようになった。
    地球温暖化など地球環境問題をリアルに伝え、世界の人々の理解と認識
   を高めることが対策の第一歩である。この課題に対し、米国ゴア副大統領
   は早くからインターネットの活用に着目し、世界の子供たちが観測したデ
   ータをインターネットで集約し、分析・処理を加え最新の地球環境イメー
   ジをフィードバックする「GLOBE計画(環境のための地球規模の学習
   及び観測計画)」を1994年に提唱し、1997年1月現在、我が国を
   含め世界44ヶ国が参加している。

 (2)情報通信が環境保全に果たす役割
    近年の情報通信の急速な発展は、コミュニケーションの概念を一変させ、
   グローバルなネットワークを基盤とする新しい文明を作り上げつつある。
   21世紀に向けて環境と成長の調和を図り、持続可能な成長を実現してい
   くためには、情報通信の活用によるブレイクスルーが期待される。すなわ
   ち、情報通信を活用し、社会経済活動やライフスタイルを環境と調和した
   ものに変えていくことにより、環境への負荷を総合的に低減した新たな社
   会経済システムを構築していくことが重要である。

   ア 環境問題への理解と参加の促進
     地球環境問題への対応には、個人の日常生活から企業活動、さらには
    政策形成に至るまで共通認識を持つことにより参加の機運が高まること
    が不可欠であり、インターネット等の情報通信ネットワークや放送メデ
    ィアを活用した環境情報の提供・交流を図っていくことが重要である。
     この一環として、情報通信ネットワークを活用し、世界の人々が地球
    温暖化やオゾン層破壊の状況等の地球環境情報にリアルタイムで容易に
    アクセスできる環境を整備していくことにより、世界の人々の共通認識
    を高め、環境に配慮した意志決定が行われるようにしていくことができ
    る。
     また、温暖化シミュレーションなど効果的な教育・啓発や、開発途上
    国への環境対策技術の移転を図るためにも有効に活用していく必要があ
    る。

   イ 環境への負荷の少ない循環型社会経済システムへの変革
     情報通信がもつ時間と空間を超越するという機能を活用することによ
    り、人の移動や生産流通活動の効率化、交通流の円滑化、リサイクルの
    促進等を通じて環境と調和した循環型の社会経済システム・ライフスタ
    イルを実現していくことが期待できる。
     このため、テレワークの世界的普及、高度道路交通システム(ITS)
    の開発・普及等を推進するとともに、循環型社会に必要なリサイクルの
    基盤となる情報通信システムの開発・普及を図る必要がある。
     また、環境負荷低減をより効果的に発揮するため、省エネルギー、ペ
    ーパレス化等の視点を踏まえた機器やシステムの開発も重要である。
     なお、その際、社会経済活動の情報化がもたらす活動量の誘発効果な
    どマイナス面も考慮する必要がある。

   ウ 光・電波を活用した環境計測
     最新の情報通信技術を活用したリモートセンシング技術は、大気、海
    洋、河川等のグローバルな環境計測の他、野生生物の研究、森林開発の
    モニター等に貢献しており、これらの技術の一層の活用が必要である。

   エ 地球環境の計測、研究ネットワークの構築
     国際的、学際的な協力が不可欠な地球環境の観測と研究を効率的に推
    進していくためには、世界の研究機関を情報通信ネットワークで結び、
    容易に情報の交換、分析、発信ができる協調型の仮想研究所(マルチメ
    ディア・バーチャル・ラボ)の構築が必要である。

 (3)情報通信の環境保全効果の実現
    以上のような効果を実現していくためには、関係省庁との連携や国際的
   な連携を進め、あらゆる社会経済活動の基盤となっている情報通信の高度
   化を一層推進していく必要がある。
    また、21世紀のネットワーク社会に向けて地球環境保全をさらに進め
   ていくためには、世界的な取組として、このような情報通信の機能を積極
   的に活用していくことが重要な課題であり、1997年6月の「国連環境
   特別総会」や、同年12月の「地球温暖化対策京都会議(COP3)」等
   一連の国際会議の場で、我が国から世界に向けて情報通信の活用方策を提
   案していく必要がある。


第2章 サイバー社会の課題と展望

第1 サイバー社会とは

 1 サイバー社会の出現
   情報通信の高度化に伴う情報活動の活発化は、社会経済全般に大きな変化
  をもたらしつつある。
   18世紀末に起こった産業革命は、大量生産を可能とする製造技術の革新
  が、財の生産・流通過程の変革を通じて社会の変革をもたらすとともに、現
  在の社会的・経済的制度が構築される際の基盤となっている。
   現在、進行しつつある情報通信革命は、人間の情報活動の変化を通じて、
  社会経済活動を根本的に変革する可能性を有している。このような社会変革
  は、我が国のみならず国際的にも、人々のライフスタイルの変化や、産業構
  造の転換を促進するとともに、既存秩序の再構築を余儀なくさせる可能性を
  有している。その最も典型的な形態は、サイバー社会の出現による社会変革
  である。
   サイバー社会とは、情報通信ネットワークの高度な利用により、距離・時
  間の制約を取り払い、現実社会の活動を補完、さらには代替し、全体として
  新しい社会経済活動が実現している社会である。つまり、サイバー社会とは、
  人類が初めて手にする、距離と時間の制約から解放された21世紀のフロン
  ティアである。

  (注)サイバー(cyber)の語源
     作家のウィリアム・ギブスンが1984年に書いたSF小説「ニュー
    ロマンサー」で「サイバースペース」という言葉を使ったのが最初と言
    われている。
     そもそもの語源は、生物が自らを制御するメカニズムを機械系にとら
    えなおして、技術を総合的に研究する学問の分野である「サイバネティ
    ックス(cybernetics)」に由来する。


 2 サイバー社会の意義
   サイバー社会においては、情報活動が様々な制約から解放され、ネットワ
  ーク上での、自由かつ円滑な情報流通を可能にする環境が出現する。

 (1)情報の生産・発信力の向上
    情報の生産や発信が質的に高度化するとともに量的にも増大する。特に、
   個人レベルにおいて、より多数の者に向けて、いつでも自由に自ら作成し
   た情報を容易に発信することが可能となる。

 (2)行動制約の克服
    情報通信の距離的・時間的制約を克服する機能が高められ、ネットワー
   ク上で実社会の社会経済活動を代替することができる空間が出現する。

 (3)情報交流圏の拡大
    情報が瞬時に国境を越えて伝搬・拡散することから、国境を超えた情報
   交流圏が形成される。特に、個人レベルにおいて、全世界の人々と瞬時に
   受発信することができる。

   このような情報環境の変化により、サイバー社会においては以下のような
  変化が生じる。

 (1)個の確立
    個人レベルでの情報発信力が向上することにより、自己表現の機会が増
   大し、個人自らが新たな価値観を創造することにより個が確立する。

 (2)新たな人間関係の形成
    ネットワーク上で直接対面に基づかない新たな人間関係が構築される可
   能性があり、従来は地縁・血縁や、学校・会社等の組織への帰属に基づく
   人間関係が中心であったが、価値観や思想、趣味等を含む情報の共有によ
   って新しい人間関係が形成される可能性がある。

 (3)社会的一体感の変容
    従来はマスメディアの情報提供による基本的情報の共有が、国家や社会
   の一体感を醸成する大きな要素であったが、個人レベルでの情報発信力の
   向上や地域、国境を越えた情報の共有化の進展により国家意識、国民の政
   治意識や社会的関心の形成が異なったものになる可能性がある。


 3 サイバー社会における社会経済活動

 (1)生活分野における変化
    個人が企業、行政と世界的レベルで直結する。例えば、電子商取引等を
   利用した非対面型取引の拡大等は、消費者のニーズが反映されやすくなる
   等、消費者主導型の市場構造の実現に寄与する。
    また、オンラインショッピング等により、生活の利便性が向上するとと
   もに、テレワークが可能になり勤務形態が多様化する。生活の諸活動の代
   替・効率化によりゆとりが拡大し、自己実現型の余暇活動が促進される。
    更に、ネットワークを介して、世界中の様々な情報が入手できることか
   ら、教育、文化面において、人間の知的活動を発展させる。
    これまで意欲があっても社会参加が実質的に制限されてきた女性、高齢
   者、身体障害者等の社会進出の可能性が増大する。

 (2)産業分野における変化
    企業内、企業間、企業と消費者との関係を変化させる。企業内の変化と
   しては、企業組織のフラット化、フレキシブル化、スリム化が促進され、
   業務の効率化に寄与する。企業関係においては、ネットワーク化により、
   企業の分散立地、業種を越えた連携や国際連携が活発化するとともにネッ
   トワーク上で企業活動を行うバーチャル・コーポレーション(仮想企業)
   も出現する。
    また、ネットワーク化がもたらす流通コスト等の低下に伴い、サイバー
   ビジネスの展開や、新規参入の活発化が進むことから、市場における競争
   が促進され、21世紀型の産業のダイナミズムが創出される。

 (3)公共分野における変化
    公共機関等への各種行政手続き等を一元的に行うことができるワンスト
   ップ行政サービス等の実施により、国民の利便性が向上するとともに、遠
   隔医療、遠隔教育等により公共サービスの高度化が促進される。また、図
   書館でも従来の紙資料に加えて電子情報資源が蓄積され、図書館に来て利
   用するだけでなく、家庭や職場からオンラインで遠隔利用できるようにな
   り、情報へのアクセスが飛躍的に向上する。

 (4)社会経済活動のグローバル化の進展
    国際的な社会経済活動や情報流通が日常化することにより、ボーダーレ
   ス社会が出現する。このため、国際的な諸制度やルールの重要性がさらに
   高まることとなる。


 4 サイバー社会の基本理念
   健全なサイバー社会を実現するためには、環境整備が必要であるが、サイ
  バー社会における諸問題は、技術面から制度、慣習面、さらには国民一人一
  人の価値観にまでわたるものであり、従来の工業社会の価値観とは異なる2
  1世紀の新たな価値観を構築する必要がある。また、サイバー社会における
  トータルコストを現実社会と比較分析しておく必要がある。
   サイバー社会においては、産業・文化の発展や人々の生活における情報の
  重要性は飛躍的に高まる。したがって、ネットワーク上で情報が自由かつ円
  滑に流通することや、全ての人が非差別的にかつ適切な価格で情報活動を行
  えることが重要である。
   サイバー社会における基本原則として、以下の事項が考えられる。

 (1)情報の自由かつ円滑な流通の確保
    社会経済活動を営む上で、情報の生産・流通・消費は不可欠であるとと
   もに、人間の情報活動は、社会経済活動を根本的に変革する可能性を有し
   ている。情報の自由かつ円滑な流通を通じて、地球上の物的・知的資源の
   有効活用及びその成果の享受が可能となるとともに、個人の自由で多様な
   知的活動が促進される。また、情報の活発な流通を通じて、国際的な相互
   理解が深まり、調和のとれた平和な社会の実現に寄与する。
    このように、情報への依存度が極めて高いサイバー社会においては、情
   報の自由かつ円滑な流通を確保することが重要な基本原則となる。

 (2)情報発信権、情報アクセス権の保障
    社会経済活動が情報通信に依存する度合いが高まるにつれ、情報面での
   格差が社会経済活動の格差に直結することになる。したがって、全ての人
   々が非差別的にかつ適切な価格でネットワークを利用して情報を発信でき
   る「情報発信権」と、あらゆる情報にアクセスできる「情報アクセス権」
   を保障する必要がある。

 (3)安全性と信頼性の確保
    情報の自由かつ円滑な流通の確保やすべての人々があらゆる情報を受発
   信できる環境を整備することが重要である。とりわけ、ネットワークへの
   不正アクセスやプライバシー侵害などは情報の自由な流通を確保する上で
   障害となることから、人々が安心してネットワークを利用できるための環
   境整備を図る必要がある。

 (4)各国の文化的及び言語的多様性の尊重
    サイバー社会においては、ネットワーク上の情報が国境を超えて自由に
   流通することから、各国における文化、宗教等の相違に基づく衝突、摩擦
   などが生じる可能性があるが、各国の文化的及び言語的多様性を最大限尊
   重することが重要である。

 (5)国際的連携の推進
    ネットワークのグローバル性に鑑み、各国の制度等を尊重しつつ、国際
   的な連携を強化する必要がある。


第2 サイバー社会に向けての環境整備
   サイバー社会の進展に伴って、生活分野、産業分野、公共分野において様
  々な変化が生じることが予想されるが、我が国の社会経済活動がより円滑に
  発展していくためには、情報通信の高度化に伴い出現している様々な課題に
  対する対応を検討することが必要となっている。

 1 情報流通の環境整備
   ネットワークにおける反社会的な情報の流通
   近年、インターネットやパソコン通信の利用が一般に普及するに従い、わ
  いせつ情報、他人の誹謗中傷、犯罪を誘発する可能性のある情報等の流通や、
  違法な物品販売、詐欺等の横行が社会問題となり、刑事事件としての摘発例
  も増えつつある。
   電話やファックスの利用についても、物品販売等の勧誘電話を中心に迷惑
  電話に関する苦情や、一方的に広告・勧誘等のファックスを送信するジャン
  クファックスに関する苦情が増加しつつある。また、悪質ないたずらや広告
  ・勧誘目的の迷惑電子メールも問題化し、米国では訴訟に発展している。
   世界各国においても同様の問題が生じており、それぞれに対応策が導入・
  検討されており、特に、インターネット上の情報の流通に関しては、EU、
  OECD等の国際機関において検討課題となっている。

 (1)今後の対応

   ア 技術的手段による対応
     発信者の表現の自由や通信の秘密の保護と受信者の自己が嫌悪する情
    報を受けない自由との均衡を図る方法として、受信者がソフトウェアに
    よって望まない特定の内容の情報をブロックできる技術は有効である。
     今後、各国の文化的・歴史的事情に配慮したフィルタリング技術の開
    発を進めるとともに、その実効性を高めるため、情報の格付け(レイテ
    ィング)の在り方についても検討する必要がある。
     なお、作成者自身による格付けは客観性等に欠けることや、無数のホ
    ームページを格付けすることは現実的に困難であることから、格付けの
    困難さがフィルタリングの困難さにつながるため、一定の限界があると
    の指摘もある。

   イ ルールによる対応
     インターネット等新たな情報流通形態に対する法規制の動向としては、
    1996年、アメリカで通信品位法が制定されたが、「下品な」通信や
    「明白に不快な」通信まで規制する部分について違憲訴訟が提起され、
    現在最高裁で審理中である。また、フランスでも、電気通信規制法内の
    インターネット等の情報流通に関連する規定が国民議会で採択されたが、
    憲法院から一部違憲の決定を受けた。
     こうした諸外国の状況を見ても、新たな法規制についてはコンセンサ
    スが得られていない状況にある。我が国においても、刑法等の現行法の
    規律が適用されることを前提とした上で、表現の自由の保障等の観点か
    ら、新たな法規制については慎重に検討すべきである。
     我が国では、プロバイダーやパソコン通信事業者が利用者と契約する
    に当たり、違法な又は公序良俗に反する情報の発信をしないよう求める
    場合が多いが、こうした取組を発展させ、事業者と利用者の間で自主的
    にサイバー社会における情報流通のルールを形成していくことが期待さ
    れる。具体的には、通信事業者等の団体によるガイドライン策定を通じ
    て、コンセンサスの形成が図られることが望ましい。
     イギリスでは、1996年、インターネット・プロバイダーの事業者
    団体によって「R3セイフティ・ネット」と称する自主規律が策定され
    ている。

   ウ 苦情処理体制の整備
     問題状況の拡大防止や被害の救済のためには、利用者からの苦情申出
    に適切かつ迅速に対応することが重要であり、「インターネット110
    番」をはじめとする苦情処理・相談体制を各事業者及び事業者団体のレ
    ベルで整備することが求められる。

   エ 情報社会教育
     サイバー社会において、国民すべてが等しく情報発信権、情報アクセ
    ス権を享受するためには、利用者個人がその責任を自覚し基本的なモラ
    ルを身につける必要がある。そのため、家庭、学校、図書館、企業等あ
    らゆる場を通じて、情報社会教育を充実させることが必要である。

   オ 国際的連携の必要性
     インターネット上の情報は、国境を越えて流通するため、その利用の
    在り方に関する対応には国際的な連携が不可欠となる。しかし、国によ
    って文化、歴史、法制度等が異なるため、各国の法制度等を尊重しつつ
    必要最小限なルールに合意し、その下での国際的連携を促進することが
    考えられる。
     なお、1997年のOECD閣僚理事会において、「インターネット
    上のコンテント及び行為」の重要性が指摘され、早急な対処の必要性が
    強調されたが、我が国も、このような国際的な議論の場に積極的に参加
    し、貢献する必要がある。


 2 知的所有権の保護
   現行の著作権制度は、歴史的には、従来の印刷・出版等アナログ技術を前
  提として整備され、運用されてきた。そこでは、権利侵害の典型的な態様は
  「複製」であり、権利者はこの複製権の行使により自己の利益を確保してき
  た。
   現在では、インターネット等の普及に伴い、ネットワーク上を情報が容易
  に流通し瞬時に世界をかけめぐるようになり、個々人が、ネットワークを用
  いて容易に世界中に情報発信できるようになっている。しかし、その反面、
  世界中の誰でもが、ネットワークから他人の著作物等を容易に手に入れるこ
  とができる状況が生まれている。また、デジタル技術が、劣化のない複製を
  容易にしている。ネットワーク化・デジタル化の進展により、自己の情報の
  流通をコントロールすることが困難になり、著作者等の権利侵害の可能性が
  高まるとともに、複製等の行為に個別の許諾権が及ぶ権利処理形態が適合し
  なくなりつつある。
   一方、良質かつ魅力あるコンテント、ソフトウェアに対するニーズが高ま
  り、これらの円滑な流通を図ることが一層重要な課題となっている。インタ
  ーネットを利用した電子図書館などネットワークにおけるコンテントの流通
  を促進するため、利用者が他人の著作物等を円滑に利用できるよう、適切な
  権利処理ルールの設定が急務である。
   以上の点を踏まえ、サイバー社会に向けて、権利の適切な保護を図りつつ、
  情報流通の円滑化を促進するための新たな対応が求められている。

 (1)技術的な対応等
    ネットワークを流通するコンテントについて、不正コピーを抑制・防止
   する技術の開発を促進する必要がある。また、コンテントの中には、不正
   コピー防止のため、コピープロテクション技術を採用したものが多くなっ
   てきているが、これに対するコピープロテクション解除装置の製造・販売
   等への対応についても検討する必要がある。

 (2)新たな知的所有権ルール・体制の検討
    デジタル化により、情報の加工・複製・改変が容易となり、ネットワー
   ク化の進展により瞬時に広範囲に情報が伝達するようになった社会におい
   ては、これらデジタル・ネットワーク環境や、多様なメディア環境に適合
   した新たな知的所有権ルールが必要となってきている。
    我が国の著作権法では、昭和61年(1986年)にネットワーク化に
   対応した「有線送信権」に関する規定を置き、1996年のWIPO新条
   約の採択に対応した国内法の改正も予定されている。しかしながら、現行
   の著作権法の延長だけでは、デジタル・ネットワーク環境において情報の
   適切な保護と運用面での円滑な権利処理を両立するために十分と言えず、
   今後、著作権のみならず知的所有権全般にわたる情報の保護について幅広
   く対象に置き、新たな環境に対応したルールを検討する必要がある。
    今後、例えば電子出版においては、ネットワーク上でのアクセスや利用
   毎に課金を行う利用権的なアプローチを導入する等、ネットワーク利用の
   進展に対応した幅広い観点からの検討が必要である。
    また、他人の著作物を利用して新たな著作物を作成することが容易とな
   る反面、著作物に関する権利関係が複雑化しており、今後の流通の促進を
   図っていくためには、著作者等に関するデータベースの構築や、権利の管
   理体制の整備等が必要である。


 3 ネットワーク上の不正行為への対応
   社会全体のネットワーク化が進展し、ネットワーク上の情報の重要性が高
  まることにより、ネットワークからの重要情報の盗用・流用や、コンピュー
  タ・ウィルスによる破壊等の危険性が幾何級数的に増大することが予想され
  る。また、不正行為の内容についても、単に不正アクセスを楽しむ愉快犯か
  ら、他人のIDとパスワードを盗用してパソコン通信の課金を免れる財産犯、
  さらには湾岸戦争中にオランダ人ハッカーがインターネット経由で入手した
  米国国防総省の情報をイラク政府に売却するという犯罪まで多岐にわたって
  いる。誰もが安心してサイバー社会における活動を行うためには、多面的な
  アプローチからこのようなネットワーク上の不正行為を防止するための対応
  が必要である。

 (1)技術的対応
    ネットワーク上の不正行為への対応には、まず技術的な対応が不可欠で
   ある。
    ネットワークへの不正なアクセスを防止する技術として、パスワード、
   ID等ユーザー情報の管理、発信者の同一性の確認のための認証技術、フ
   ァイアーウォール技術等のアクセス制御技術等の開発を推進する一方、不
   正アクセス発生時の被害拡大防止技術として、情報の暗号化、ワクチン
   (ウイルスの発見・被害防止用のソフトウエア)の開発等ウィルスチェッ
   ク技術の開発・活用も重要である。

 (2)新たなルールの検討
    情報通信ネットワークの安全・信頼性対策の指標としての基準を示した
   ものとして、「情報通信ネットワークの安全・信頼性基準」(郵政省告示)
   があるが、ネットワーク化の進展や不正行為の高度化・悪質化に合わせて、
   こうした基準を継続的に見直すことが必要である。
    法的対応については、欧米で、OECD「コンピュータ犯罪−立法政策
   の分析」(1986年)、欧州理事会勧告書「刑事制裁の対象たりうる行
   為のリスト」(1989年)等を受けて、1980年代後半にネットワー
   ク上の不正行為について、主として無権限アクセスまで処罰の対象とする
   刑法改正が行われている。
    国際刑法学会「コンピュータ犯罪等に関する分科会」(1995年)や、
   P8国際組織犯罪上級専門家会合(1996年)においても、国境を越え
   て拡大するネットワーク上の不正行為に対応し、国際的共助を可能にする
   ため、各国における法制度の整備を勧告している。
    他方、我が国においては、昭和62年(1987年)の刑法改正において
   電子計算機損壊等業務妨害罪、電子計算機使用詐欺罪、電磁的記録不正作
   出罪が新設され、業務妨害、詐欺、文書偽造それぞれの犯罪類型について
   電子的不正行為が含まれることとなったが、ネットワークへの無権限アク
   セス、電子情報の窃取等については、現行法上違法行為とはされていない
   ことから、無権限アクセスを含むネットワーク上の不正行為の防止につい
   て法的対応も検討する必要がある。


 4 暗号政策・認証制度
   対面や書面により取引や申告・申請手続を行う場合は、免許証や印鑑証明
  等を用いて相手を確認したり、内容の真正性を確認することは容易であるが、
  ネットワークを介して取引や申告・申請を行う場合には、第三者による「な
  りすまし」、情報の「改ざん」、通信した事実を相手方に後になって「否認」
  される等のおそれがある。
   今後、電子商取引等ネットワーク上の社会経済活動を普及・定着させるた
  めには、こうした危険を払拭し、通信データの安全・信頼性を確保すること
  が重要である。この点について、最近注目を集めているのが暗号技術であり、
  その認証機能を活用することによってネットワーク上で通信当事者の本人確
  認や内容確認等を行うことが可能である。

 (1)認証システムの整備
    暗号技術の持つ認証機能を活用するに当たっては、個々の暗号鍵の所有
   者を証明する通信当事者以外の者(認証機関)の存在が不可欠である。
    認証機関の提供するサービスは、暗号鍵の管理及びその真正性の証明や、
   発信・送達証明、内容証明サービス等を提供することが考えられる。
    こうした認証機関のサービスに支えられた認証システムは、サイバー社
   会において安心して社会経済活動を営むために不可欠なものであり、その
   整備の促進を図っていくことが必要である。

 (2)認証制度の在り方
    認証機関に求められるサービス内容は、今後質的に多様化し量的にも拡
   大することが予想される。そのため、公的機関及び民間の機関による多様
   な認証サービスの提供が求められる。
    サイバー社会が拡大し、認証機関の重要性が高まれば、そのサービスが
   適正に行われない場合の影響が甚大なものとなる。そこで、認証機関の信
   頼性確保に必要な範囲で制度の整備を進めることが必要である。
    認証機関の制度化に当たっては、技術的基準を含む設立要件や業務運営
   上の条件について検討を進める必要がある。
    また、認証機関が発行した証明書に瑕疵があり顧客又は第三者に損害が
   生じた場合に認証機関が負うべき法的責任の範囲や、認証機関が入手する
   顧客のプライバシー情報の保護についても検討することが求められる。
    諸外国においても、認証機関やデジタル署名の法的効果について制度化
   している国が出てきており、そうした国際的動向にも配意しつつ、また、
   急速な技術革新に対応可能な制度とすることに留意し検討する必要がある
   と考えられる。

 (3)認証システムの国際的な枠組みの検討
    電子商取引等ネットワーク上の社会経済活動を国境を越えて行う場合、
   各国の認証システムの相互運用性(インターオペラビリティ)の確保が必
   要である。
    この点は、諸外国においても認識されており、1997年3月のAPE
   C電気通信ワーキンググループ会合においても、認証システムの国際的な
   枠組みを検討するタスクフォース設置の提案があり、我が国のほか諸外国
   が合意したところである。
    このような検討には、既存の電子商取引実験のフィールドを活用し、実
   証実験を行いつつ検討を進めることが有効である。

 (4)暗号技術の活用と暗号政策
    暗号技術は、その認証機能により、電子商取引や電子マネーを支える基
   盤となるほか、守秘機能により、通信の秘密を含むプライバシー保護や知
   的所有権の保護にも資するものである。
    これまで暗号技術は軍事・外交・警察といった特定の分野で活用されて
   きたが、今後はネットワーク上の活動で一般的に用いられることが想定さ
   れるため、国家安全保障又は公共の安全確保という観点と暗号の自由な活
   用とのバランスのとれた暗号政策を進めることが必要である。
    こうした点について、OECDで議論が行われ、1997年3月に、
   「暗号政策ガイドライン」を取りまとめた。ここでは、市場主導による暗
   号の開発や通信の秘密を含むプライバシー保護を掲げつつ、国家安全保障
   や公共の安全の観点から、各国において暗号鍵へのアクセスを許容する国
   内政策をとることも認められるとしており、1997年の閣僚理事会にお
   いて、国際協力面での重要な貢献であるとの評価を受けている。
    今後、我が国においても、こうした国際的動向や我が国の現行法令を踏
   まえ、バランスのとれた暗号政策の在り方について検討を行うことが求め
   られる。


 5 プライバシー保護
   現状においても、例えば、全国信用情報センター連合会が管理するコンピ
  ュータから、6年間に約85万件もの個人信用情報が引き出され他の目的に
  流用されたケースや、別の信用情報機関において4年間に約1千件の個人情
  報が債権回収業者に流されたケースなど大規模なプライバシー侵害の事例が
  発生しており、プライバシーの保護は重要な課題となっている。今後、サイ
  バー社会では、情報通信サービスの高度化・多様化や情報通信機器の普及・
  高機能化等に伴い、情報通信ネットワークを通じた個人情報の流通・蓄積が
  一層加速するおそれが大きい。特に、電子商取引等が普及するにつれ、個人
  の氏名、年齢、住所等の情報の流通・蓄積もより加速されることとなる。
   また、患者情報等個人の病歴に関する情報が収集・蓄積されるなど、ネッ
  トワークにおいて、思想・信条・宗教・病歴等に関する個人情報の収集・蓄
  積が行われることにより、これらのデータを基にした社会的差別が行われる
  おそれも指摘されている。
   サイバー社会において、誰もが安心して社会経済活動を行うことが出来る
  ようにするため、ネットワーク上における個人情報等の収集・蓄積・利用・
  外部への提供に関する適切なルールの設定が必要不可欠である。

 (1)諸外国における対応
    欧米諸国では、各国において、個人情報保護に関し、公的部門及び民間
   部門双方に及ぶ法律を制定している。米国においては、連邦の公的機関を
   対象として比較的早く1974年にプライバシー保護法が制定され、その
   後、民間部門についても1988年のビデオプライバシー保護法のように
   必要に応じて各領域毎に個別の法規を制定している。また、ヨーロッパ諸
   国でも、1980年に出された、OECDプライバシーガイドラインや、
   EUの個人データ保護条約等を基礎として、包括的な個人情報保護法が制
   定されている。
アメリカ プライバシー保護法(1974年)
                       等
イギリス 個人データ保護法(1984年)
フランス データ処理・データファイル及び個人の自由に関する
法律(1978年)
ドイツ
データ保護法(1990年)
現在審議中の「情報通信サービスの基本条件の規制に
関する法律案」において個人情報のデータ保護を規定
 (2)EUにおける最近の動向
    EUでは、1995年に採択された個人情報保護指令において、構成国
   に対し、十分なレベルの保護を講じていない第三国へのデータ移転を禁止
   する規定を1998年10月までに設けることを義務付けている。これに
   より、我が国において十分なレベルの個人情報保護が確保されない場合に
   は、1998年10月以降、EU各国との情報流通に支障をきたすおそれ
   が出てくる。

 (3)我が国における対応
    我が国における個人情報保護に関する法律としては、1988年に制定
   された、「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関
   する法律」があり、公的部門の保有する個人情報の取扱について定めてい
   る。民間部門を対象とした一般的な法律は存在しない。地方公共団体レベ
   ルでは、個人情報保護条例が、16都道府県、1179市町村等の120
   2団体で制定されており(平成8年4月、自治省調べ)、これらの中には、
   公的部門のみならず、民間部門を対象とするものもあるが、自治体間の個
   人情報保護の格差が生じ、ネットワークによる情報流通の障害となるおそ
   れがあるなどの問題点もある。
    民間部門における個人情報保護については、例えば、情報通信分野では、
   「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」や、「放送
   における視聴者の加入者個人情報の保護に関するガイドライン」等により
   保護が図られている。
    今後、サイバー社会に向けて、一層安心して社会経済活動や情報流通活
   動を行うことができるよう、ガイドラインの実効性も見定めつつ、諸外国
   の例にならい、我が国においても、民間部門を対象とした個人情報保護法
   の制定についての検討を早急に行う必要があると考えられる。


 6 電子商取引、電子マネー
   インターネットの爆発的普及を受け、これを取引に活用する動きが出てき
  ている。平成9年4月現在、国内のみで3千近いバーチャルショップが存在
  し、この数は、日々増加している。また、企業間取引においても、ネットワ
  ーク上でデータ交換を行うことにより、決済効率化を図る動きも加速してい
  る。
   これらネットワーク上での電子商取引が普及することにより、生産者・販
  売者と消費者が、よりダイレクトに結びついた効率的な経済活動が可能とな
  る。
   また、電子マネーは、取引と同時に決済が完了することを可能にすること
  により、ネットワークを利用したコンテント・ビジネスの発展にも寄与する
  と考えられる。
   電子商取引、電子マネーに関する取組は依然その揺籃期にあり、できるだ
  け自由な展開が進められるべきであるが、他方、利用者にとっての利便性や
  安全性の確保を図ることも重要である。そのためには、これまでの対面や書
  面による商取引とは異なる一定のルールも必要となると考えられる。電子商
  取引の普及に際しては、取引情報の保護や有効性の証明、消費者保護及びプ
  ライバシー保護等のための制度的検討を行うことが必要である。

 (1)電子商取引に関する基本的ルールの検討

   ア 商品やサービスに関する情報提供のルール
     既存の対面取引と比べて、消費者側は、取引に関して販売者側の信用
    を判断する手段に乏しいため、一般の取引に加え、新たな情報提供のル
    ールについて検討する必要がある。

   イ 取引行為に関するルール
     現行民法では、隔地間取引の場合の契約成立時点は、発信主義が原則
    となっているが、ネットワーク上の取引での成立時点をいつにするのか、
    また、契約の撤回・変更はいつまで可能であるか等に関し、現行法規と
    の関連を検討する必要がある。
     また、契約の錯誤、詐欺、なりすまし発注等無権限者による取引等に
    つき、無効・取消が可能な範囲についても検討することが必要である。

   ウ トラブルに関する責任
     ネットワーク上の取引について、データ転送に関する不到着、滅失、
    遅延等につき、バーチャルショップ経営者、プロバイダー、キャリア等
    の関係者のうち誰がどのような責任を負うかといった点について検討す
    ることが必要である。また、リスク分配の観点から、ネットワーク取引
    に関する保険による補償の在り方についても検討することが必要である。

 (2)電子マネーの位置付け等
    現在「電子マネー」と称されているものには、デジタルデータ自体に
   「価値」を認めるものから、支払指図を電子的に行うものまで、様々なも
   のがあり、それぞれの内容に応じてその法的位置付けについて検討するこ
   とが求められている。
    また、ネットワークにおける取引の安全性の観点から、電子マネー発行
   主体の技術上又は財務上満たすべき基準についても検討する必要があると
   考えられる。
    さらに、電子マネーが既存の金融機関の決済業務に及ぼす影響、マネー
   サプライ管理等の金融政策に及ぼす影響及び電子マネーの国際的流通に伴
   う問題についても検討が必要であると考えられる。

 (3)国際的な連携
    電子商取引に関する制度整備は、未だ各国において検討されている段階
   にあるが、UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)においては、1
   996年6月、ネットワーク上の企業間取引に関し、「電子商取引モデル
   法」を採択したところであり、今後の各国における国内法制定の際の基準
   となっていくものと思われる。同委員会は、今後、電子認証・電子署名等
   の法的問題についても検討を進めていくこととしており、世界的にも電子
   商取引に関する検討が進められていくと考えられる。また、1997年の
   OECD閣僚理事会においても、情報通信の経済社会発展における重要性
   が確認され、消費者保護、プライバシー、そして、情報保護等に対する影
   響といった電子商取引に関する問題への取組強化が打ち出されている。我
   が国においても、電子商取引に関する制度整備について、国際的連携を強
   化しつつ、早急に検討を進めていく必要がある。


 7 消費者保護
   サイバー社会においては、従来の消費者問題とは異なり、ネットワークを
  介した虚偽広告による詐欺的商法、「なりすまし」契約等の新たな被害が今
  後増加するおそれがある。
   サイバー社会における消費者保護を図るため、消費者への啓発・情報提供
  や、苦情処理・相談体制を充実するとともに、各分野における消費者保護に
  関する規定等の見直し、整備を急ぐ必要がある。


 8 情報社会教育の充実
   サイバー社会においては、情報通信に係る教育が重要な課題であり、第1
  章で述べたように、「学校の情報化」、「情報化の教育」という青少年を対
  象とした教育分野のみならず、生涯学習分野においても図書館等を活用した
  積極的な取組が必要である。


 9 関連諸制度の見直し
   情報通信分野における技術革新が飛躍的に進展する一方、高度な情報通信
  の利活用を想定していない法制度が数多くあることは、各方面から指摘され
  てきたところである。しかしながら、ここ数年の高度情報通信社会推進本部
  制度見直し作業部会報告書や規制緩和推進計画等に基づいた各省庁の取組に
  より、個別分野における諸制度の見直しは図られつつある。こうした諸制度
  の見直しは、サイバー社会に向けての環境整備を図る上で喫緊の課題であり、
  諸制度の目的に配意しつつ、今後もさらに一層の取組を図る必要がある。
  (関連諸制度の見直しの例)
行政分野
・戸籍謄(抄)本、住民票の写し、印鑑登録証明書の交
 付等の電子化について、電子的手段を現行制度上容 
 認。住民票の写し、印鑑登録証明書については、IC
 カードなどによる本人確認も実現。        
                         
・現在紙により行われている申告・申請手続きについ 
 て、その電子化を推進するため、平成8年8月、高度
 情報通信社会推進本部において「申告・申請手続の電
 子化・ペーパーレス化」を決定。         
教育分野
・平成8年7月のマルチメディアを活用した21世紀の
 高等教育の在り方に関する懇談会報告を受け、大学審
 議会において、マルチメディアを活用した遠隔授業の
 単位認定を可能とする制度整備を検討中。     
医療分野
・遠隔医療については、厚生省において初診時を原則と
 して除き、遠隔診療を認める旨の解釈通知を出すこと
 を検討中。併せて診療報酬上の位置付けについても明
 確化を図るよう検討中。             
司法分野
・平成8年6月、民事訴訟法が改正され、遠隔地に居住
 する証人の尋問を行う際にテレビ会議システムを利用
 する等の情報通信システムの活用が認められた。  
企業内利用
・テレワークに係る勤務形態の労務管理(賃金台帳、3
 6協定、作業気積等)については、基本的には通常の
 勤務形態の労働者の場合と同様の方法で行うことがで
 きる。                     
                         
・取締役会におけるテレビ会議の活用については、取締
 役間の協議と意見の交換が自由にでき、相手方の反応
 がよく分かるようになっている場合、すなわち各取締
 役の音声と画像が即時に他の取締役に伝わり、適時的
 確な意見表明が互いにできる仕組みになっていれば、
 現行法上も可能である。             
                         
・民間に保存を義務づけた書類の電子保存を容認するた
 め、平成8年8月、高度情報通信社会推進本部におい
 て、「書類の電子保存の容認」推進を決定。    

 10 諸外国の動向
   欧米等の諸外国においては、これまで述べたサイバー社会に向けての環境
  整備のための制度的対応が進みつつある。
   暗号・認証制度の整備については、先進各国において電子商取引等の普及
  促進をはかる上で不可欠との認識があり、米国では、1995年にユタ州で
  最初に「デジタル署名法」が制定されたのち、各州で法整備が進みつつある
  ほか、連邦政府による検討も積極的である。また、英仏独各国においても、
  認証制度の制度化について、今年度中にも具体的な制度整備が進む見込みで
  ある。
   ハッカー対策やプライバシー保護についても、制度的対応については、諸
  外国と比べて我が国の遅れが目立つ状況となっている。
   さらに、サイバー社会に向けた環境整備を総合的に進めようとする取組も
  見られる。
   ドイツでは、電子商取引やその他のマルチメディアサービスの発展を促進
  するとともに、その利用者を保護するために必要な法制度が、「情報通信
  サービスの基本条件の規制に関する法律案」(通称「マルチメディア法
  案」)としてまとめられ、現在議会で審議中である。その内容は、「デジタ
  ル署名法案」のほか、情報通信を用いた各種のサービス提供の自由、サービ
  ス提供者の責任及び個人情報保護義務を規定した法案並びに刑法、著作権法
  等の改正案からなる。
   また、マレイシアでは、同国が強力に推進中の情報化計画である「マルチ
  メディア・スーパー・コリドー」プロジェクトの一環として、「サイバー
  法」の制定を明確に打ち出しており、関連する諸法案の国会審議や作成作業
  が今年中の制定を目標に進められている(資料17)。


 11 サイバー法の検討
   以上、各課題について検討を行ってきたが、サイバー社会に向けての新た
  な課題に対しては、これまでの工業社会を前提とした慣習、技術、制度等で
  は、適切な対応が困難となっている。人類が初めて手にする21世紀のフロ
  ンティアであるサイバー社会を実現するためには、現行制度とは異なる、新
  たなルール作りについて検討を行う必要があるといえる。
   我が国においては、各々の課題につき検討を開始した段階であるが、サイ
  バー社会とは、ネットワークを通じて世界中が結ばれている社会であり、そ
  の対応には、当然、国際的な連携が必要不可欠である。現在、各国において
  も、それぞれの国の制度に対応して検討が進められており、既に、いくつか
  の国においては、国内法の整備等、制度整備を実施し始めている。また、E
  U、OECD等の国際機関においても、国際的に連携をとった対応の必要性
  について検討を行っているところである。
   我が国における今後の対応としては、各々の課題につき、諸外国の動向を
  注視しながら、国民的なコンセンサスを得つつ、サイバー社会を実現するた
  めの環境整備に関する法律(「サイバー法」)の制定の可能性について検討
  を行っていく必要がある。サイバー法の検討に当たっては、複数の省庁が関
  係すると考えられるので、関係省庁が緊密な連携を図ることが重要である。
  また、サイバー法は、既存法の一部改正等を含む複数の法律から成ると想定
  されるので、全体として有機的なサイバー法制を検討する必要がある。
   その際、サイバー社会における情報の自由かつ円滑な流通を確保すること
  を基本原則とし、そのために必要な最小限の制度的整備を行うとの基本的考
  え方に基づき検討を行うことが重要である。なお、検討に当たっては、規制
  緩和の観点を踏まえつつ、今後の情報通信社会の急速な進展等にも十分に対
  応していけるような柔軟な制度としていくことも求められる。また、このよ
  うな制度的整備の検討とあわせて、サイバービジネスの振興、技術開発の促
  進などを図ることが重要である。
   我が国の産業・文化の絶えざる発展を促し、豊かな国民生活を実現してい
  くためには、21世紀のフロンティアであるサイバー社会の環境整備につい
  て、早急に取り組んでいく必要がある。



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