トピックス


 1999年6月28日付けで報道発表いたしました、「高齢者情報リテラシー向上支援モデルシステム(テレラーニングシステム)の実証実験に関する調査報告書の概要」について、お知らせいたします。  
 



高齢者情報リテラシー向上支援モデルシステム(テレラーニングシステム)の実証実験に関する調査報告書の概要


1 実験の概要

 (1) 目的
 高度情報通信社会を実現する上での喫緊の課題である国民の情報リテラシー向上及び「情報バリアフリー」環境の整備を図る。

 (2) 実験システム及び内容
 インターネット網を通じて、高齢者が遠隔地にいる講師からインターネットの利用方法を容易かつ効果的に学習することが可能なテレラーニングシステムを川崎市(講師)−金沢市(受講者)間で構築して、高齢者を受講者(モニタ)とした遠隔講習の実証実験を行い、本システムの有効性等を確認する。

テレラーニングシステム

 (3) 実験システムの特徴

 (4) カリキュラム

 (5) モニタ(受講者)
 金沢在住のパソコンやインターネットの利用経験がない高齢者40名がモニタ受講者として実験に参加。
(1クラス10名で4クラスを構成)

 (6) 実験期間(講習期間)及び実施場所
 平成11年1月12日から平成11年3月10日まで。
 第四善隣館(金沢市泉野町1-1-25)で実施。
 期間中、12回のを実施(1講習は2時間)。

2 実験結果

 (1) システムの有効性
 本システムで利用した川崎市−金沢市間のインターネットの伝送速度は、講義時間帯で平均80kbps(最低でも30kbpsを確保)であり、インターネットを利用したテレラーニングシステムでも受講者に違和感なく授業が進められ、ほぼ満足が得られる結果となった。
 なお、このときの講師から送られる映像は7フレーム/秒に設定した。
 また、次々に入ってくる情報を効率的に処理する能力が低下しつつある高齢者の学習の特性に対して、それを補強するために導入した講義のリアルタイム記録・再生機能(高齢者が自習及び演習で利用)は概ね受講者に好評で、高齢者学習に対して適切に機能した。

 (2) カリキュラム
 受講者が学習して見たかったあるいは習って良かったとして挙げた項目は、電子メールの送信・受信、ホームページの検索・閲覧、パソコンの基本操作、ホームページの作成で、これらに大きなの差はなかった。
 一方、実施したカリキュラムで、高齢者が比較的簡単と思えた項目は、パソコンの基本操作、ホームページの閲覧、検索で、次いで電子メールの受信が挙げられた。逆にホームページの作成はほとんどの人が難しいものとして挙げられており、画面上の操作ステップ数の多さ、必要とされる知識量、操作自体の困難性など、他の項目に比べて大きなギャップがあると考えられる。
 また、電子メールの受信及び送信、ホームページの閲覧について知識の獲得を確認するために行ったテストでは、50点満点中、平均43.6点の結果が得られ、これらの項目についてはテキストなどを参照をすれば、一人で利用可能というレベルまでに達した。
 なお、この結果は壮年層(65歳未満)と高齢者層(65歳以上)間で有意な差は認められなかった。

図 学習してみたかった/習ってよかった項目

図 簡単と思えた項目


表 総合テストの平均点(50点満点)


 (3) その他
 今回の講習会において、講習時の高齢者の状況は概ね楽しそうである、とした会場の状況観察結果が報告された。また、アンケートの結果からはこれらの講習については同世代で実施することが、安心感を与え困難性の高い学習に対して有効であることが分かった。
 また、講習会終了後の聞き取り調査から、講習後に新たにパソコンを購入し自宅で始めた人は9名、元々家にパソコンがあり利用可能な状況にあって、それを使い始めた人18名であった。さらに、今回の講習をきっかけとして実生活でインターネットの利用を始めたという人が19名、直ぐの開始が見込まれる数名を合わせると、40名の受講者のうち半数以上が、今回の講習がインターネットの実利用につながっている。
 これは経験のない高齢者がパソコンを使ってインターネットを操作することは困難と思われてきたが、こうした適切な講習の場を設けることで必ずしもそうではないことが実証された。
 また、通信回線(インターネット)を介したシステム構成で実施したことが、高齢者が情報通信ネットワークをより身近に体験することにもつながり、このようなカリキュラム構成での学習意欲の向上という副次的な効果もあることも分かった。

図 受講後の講習会に対する好感度

図 受講後の達成感

3 今後の課題及び展望

 実証実験の結果、本システムが高齢者の情報リテラシー向上を図る上で有効であることが確認された。
 本システムの課題及び展望としては以下のとおりである。



講習編

  1. 概要とカリキュラム項目

     本カリキュラムは、受講者がデジタルネットワーク社会に適応するための情報リテラシーの基礎を習得するように組まれたものである。平成10年の通信白書によれば、情報リテラシーは、使用できる機器のレベルに応じて、以下の3つに区別することができる。
     1) 情報基礎リテラシー(ビデオの予約やATMの操作など)、
     2) PCリテラシー(キーボード入力やPC上での文書作成など)、
     3) ネットワークリテラシー(インターネットの利用、電子メールの送信、ホームページの作成など)

     上記、通信白書では、情報基礎リテラシーの上位にPCリテラシーを据え、PCリテラシーの上位に含まれるものとしてネットワークリテラシーを捉えている。


     本カリキュラムにおける習得目標は、最上位に位置するネットワークリテラシーである。ただし本カリキュラムでは、ネットワークリテラシーの習得に情報基礎リテラシーやPCリテラシーの確かな技能が必須であるとはせず、むしろネットワークリテラシーについては、基礎的なPCリテラシーを獲得すれば、インターネットの基本的利用が可能になると考える。また、高齢者にとっては、情報リテラシーの厳格な意味での獲得をめざすよりも、ネットワーク社会への参加の身近さ、楽しさ、便利さを体験してもらうことを優先すべきと考える。
     したがって、本カリキュラムは高齢者のネットワーク社会への参加とそのための基本的リテラシーの獲得を動機づけ、それを実行する意欲を高めることを目標とする。
     上記の目標の元に、カリキュラム項目はPCリテラシーの基礎とネットワークリテラシーの基礎に焦点をあて、学習項目を選出してある。なお、今回の実証実験から、PCリテラシーとネットワークリテラシーの間に、GUI(グラフィカルユーザインタフェース)リテラシーが存在することがわかった。GUIをスムーズに操作できないと、インターネットの利用を可能にするアプリケーションソフトの操作が困難であった。そこで本カリキュラムでは、GUIリテラシーに関連する項目を新たに加えてある。

    カリキュラム項目

     1) PCリテラシーの基礎

     2) GUI操作の基礎(教材上ではWindowsの基本操作となっている)

     3) ネットワークリテラシーの基礎

      新たなコミュニケーションの手段として   インターネット上の情報入手の手段として   インターネットへの情報発信の手段として   インターネット上のサービスに関する体験として

  2. 考慮すべき高齢者の特性、それへの対応

     高齢者を対象とした講習を実施する場合は、高齢者の認知的・心理的特性に考慮して進める必要がある。注意すべき特性と、それへの対応を以下に述べる。

     1)  高齢者は、処理の複雑さが増すほど、若い人に較べて処理能力の質・効率における低下が大きい。したがって、演習中などに講師の説明を再び聞けるようにすることが、高齢者の学習に効果的であると考えられる。
     2)  高齢者は、コンピュータ上の操作を学ぶときに、若い人よりも人からのアシスタントを必要とする。したがって、演習中などに随時、講師と対話ができ、疑問点の確認が可能であることが、講義に対する不安を軽減すると考えられる。
     3)  本調査の結果、高齢者は同年代を対象とした学習の場を求めている傾向が見られた。よって、高齢者対象の講習であることを明確にすると、高齢者の参加が促進されると考えられる。また、グループで講義を受ける形式は、高齢者同士が助け合いながら学習が行えることが可能で、高齢者の学習に効果的であると考えられる。

  3. スケジュールと講習の構成

     本実験では、スケジュールについては週1回の講習と週2回の講習を行った。PCに触れる機会が多いという理由で、受講者には週2回が好評であった。実証実験のための調査等の時間が含まれていたため、学習内容の講習は全10回(1回2時間)であった。基礎コースとしては、説明を丁寧にすることと、練習時間を多く取る方が望ましいので、10回で足りない場合は12回くらいが適切と思われる。
     講義スケジュールの一例を、下記に示す。

    講義スケジュール(例)
    第1回 パソコンの基本操作(パソコンの起動/終了)
    マウスの操作
    第2回 アプリケーションの起動/終了
    キーボードの操作
    第3回 文書の作成
    フロッピーディスクへの保存
    第4回 Windowsの基本操作
    第5回 インターネット概要
    電子メールの受信
    第6回 電子メールの送信
    第7回 ホームページの閲覧・検索
    第8回 基本的なホームページの作り方(1)
    第9回 基本的なホームページの作り方(2)
    第10回 インターネットサービスの体験(1)
    インターネットタウンページの利用
    第11回 インターネットサービスの体験(2)
    マルチメディアアプリケーションの体験
    第12回 講座のまとめ
    総合課題演習

     上記講義スケジュールに示すように、学習内容の順序としては、まずPCリテラシーの基礎、そしてGUI操作の基礎、その後は、電子メールの受信・送信とした。電子メールをネットワークリテラシーの最初にした理由は、遠隔地に講師がいるため、その講師から受講者にほぼ瞬時にメッセージが届くことを早く体験してもらい、新しいコミュニケーション手段としての便利さを実感してもらうとの意図による。
     もし、テレラーニングシステムを用いた遠隔講習ではないときは、メールの受信・発信より先にホームページの閲覧を実施することも考えられる。この場合、インターネット上にある多様な情報を見たり読んだり聞いたりすることができるため、そうした意味での実感がわくとの理由からである。この点については講習の実務に応じて組みかえることが適当である。

     1回の講習は2時間とし、構成は、開始の挨拶、単一内容項目の講義、演習、次の内容項目の講義、演習、終了の挨拶という順序で行う。  この構成については、高齢者にとって本講習が新規の体験であるので、一度に多くの知識学習を課すと記憶に対する負荷が大きくなり、却って学習効率が低下すると考えられるためである。
     そこで[小単位の知識学習→体験的演習]の繰り返しを原則として講義を構成する。

  4. 教材 (詳細は付属資料ー教材ーを参照のこと)

     教材は電子教材とし、HTMLで作成している。
     表現に関しては、高齢者に読みやすいように、フォントはゴシック体、サイズは14ポイント以上になるようにしてある。
     また各回のカリキュラムの内容項目を最初のページに掲載し、その回の学習内容や達成目標が一覧できるようにしてある。
     電子メールなどの新しい用語については、極力日常的なメタファ(手紙、私書箱など)を用いてわかりやすく説明している。
     基本的な操作、重要な操作については、その回以降の講義でも取り入れ、繰り返し説明している。

     電子教材を作成する際に気をつけなければならないことは、市販の教材作成用ソフトを利用する場合もHTMLで作成する場合も、教材の利用開始も終了も他のアプリケーションと同様の操作で、利用できるようにすることである。具体的には、ダブルクリックするのみで教材内容が開き、終了についても右上のバツ印(バツ印)のクリックによって達成出来るというように、他のアプリケーションと同様の操作で利用できるようにする。特に高齢者で初心者である場合は、アプリケーション特有の操作を理解し、実施することは困難な場合が多い。

     今回採用した教材用のアプリケーションは、入手が容易なものを選んでおり、Windows95対応の標準的なPCにあらかじめインストールされているアプリケーション及びインターネット上で入手できるフリーソフト、体験版ソフト等である。

    具体的には、以下を使用している。

    使用したアプリケーション

    項目

    使用したアプリケーション

    入手元

    マウス操作 マウス体操 http://www.vector.co.jp/
    アプリケーションの起動  電卓 Windows95対応PCに装備
    キーボード操作  一文字打ち http://www.vector.co.jp/
    メモ帳 Windows95対応PCに装備
    文書作成  ワードパッド Windows95対応PCに装備
    電子メール  Outlook Express Windows95対応PCに装備
    ホームページ閲覧 Internet Explorer Windows95対応PCに装備
    ホームページ作成 Adobe PageMill 3.0J 体験版 http://www.adobe.co.jp/product/pagemill/

    その他の特徴としては、以下のことが挙げられる。

    1)見え方としての教科書らしさ
     高齢者は、本来のPC画面と教材上に貼りこまれたPC画面との区別がつきにくく、教材上に貼りこまれたPC画面の方をクリックしてしまうといった操作が見られた。
     教材上に張り込んだ画面には、その区別がつくように、操作手順を盛り込む、教科書の図版に枠をつける、説明の焦点となる箇所を赤い丸で囲む等、教科書らしく見えるように工夫してある。

    2) 1ページに1内容項目
     受講者はスクロールしながら講義を聴いたり、目標となるオブジェクトを探すことが難しいため、スクロール操作を極力避ける方針で、1ページには1内容項目のみ収まるように教材を作成している。1内容項目とは、例えば3ステップで一連の操作の場合、1ページに1操作を記述するような詳細なものである。また、現前のページがひとまとまりの内容項目の何処に位置するかがわかるようなデザインにしている。

  5. カリキュラム項目の達成目標と対策

     表1に各カリキュラム項目の講習を行ったときの達成目標、そのときの高齢者の特徴、その特徴への対応策を示す。

    表1 カリキュラム項目/達成目標/高齢者の特徴/対応策

    カリキュラム項目

    達成目標

    高齢者の特徴

    対応策

    パソコンの基本操作 パソコンの各部名称の理解 用語や部品名をきちんと知ろうとする 部品についてはシールを貼って上げる
    パソコンの起動と終了ができる 終了の時に本体のスイッチを切ってしまう.直りにくい. 電源を切ってはいけないと張り紙をする
    マウスの操作 クリック、ダブルクリック、ドラッグができる ダブルクリックが困難.力が入りすぎる.手がふるえる. 指だけ動かすように説明し実演して見せる
    アプリケーションの起動 マウスによるアプリケーションの起動と終了ができる ダブルクリックによる起動がうまくいかない 同上
    キーボードの操作 ローマ字入力で文字入力ができる   母音に赤、子音に青いシールを貼って好評
    文書作成 ひらがな/漢字変換ができる    
    文章を入力できる 入力したい箇所にマウスやカーソルを持っていくことが困難 先に説明をして練習する
    入力モードの切り替えができる 理解しにくい概念である  
    ファイルの保存 フロッピーディスクへの文書保存ができる フロッピーに何か入っているという実感がもちにくい 隣の人と交換して中のものを見てみる
      ディレクトリの概念が難しい デスクトップのみを使用する
    GUI操作 入力領域に文字を入力できる 当該箇所にマウスを持っていくこと、文字種を指定することが困難  
    ウィンドウのサイズを変えることができる ドラッグは慣れれば問題なし  
    ウィンドウを選ぶことができる    
    デスクトップ上の文書を開いて閉じることができる デスクトップ上の文書の扱いについては問題なし  
    インターネット概要 インターネット、電子メール、WWWを知る    
    電子メールの受信 設定ができる 設定はできない.意味不明の記号の入力はきわめて困難 あらかじめ設定しておく
    ログインのためパスワードを入力できる パスワードが長いと忘れる 意味のある短い語がよい.3文字まで
    メールを受信して読むことができる    
    電子メールの送信 パスワードの入力ができる パスワードが長いと忘れる 意味のある短い語がよい.3文字まで
    送信アドレス、題名が入力できる アドレスの入力に間違いが多い 返信を先に教えるとスムーズである
    本文を入力できる   短いメールアドレスを用意する
    送信できる    
    ホームページの閲覧 URLが必要なことを理解し入力する URLの入力に間違いが多い ブックマークを用意しておく
    ホームページを見る    
    リンクを辿ることができる    
    ホームページの検索 キーワードを入力できる    
    検索結果を確認できる    
    リンクを辿ることができる    
    ホームページの作成 HP作成アプリケーションを使って文字を入力できる メニューの理解と操作が難しい.何を作れば良いかわからない. 既製デザインの部分の変更のみとする
    画像をはりこむことができる 同上  
    インターネットサービス体験 インターネットタウンページを利用できる 好評  

  6. 講習終了の際に求められた内容項目

     講習会の終了に際しては、その後、受講者がインターネットを実際に利用するためのガイダンスを行うことが望ましい(表2)。

    表2 講習終了の際のガイダンス(例)

    求められた項目

    説明の要旨

    パソコンとその機種 具体的な機器の紹介
    ネットワーク 通信網
    LAN 狭い範囲の通信網ローカルネットワーク
    WAN 広い範囲の通信網ワイドエリアネットワーク
    サーバ サービスを提供する側
    クライアント サービスを受ける側
    インターネット 国境を越えた世界的な通信網
    プロバイダ 接続業者
    ホームページ 公開情報
    プログラム ソフトウエア
    ダウンロード (サーバから)情報を取り込むこと
    アップロード (サーバへ)情報を送り出すこと
    ISDN 多くの情報を早く送れる電話回線
    モデム 電話回線にパソコンをつなぐもの

  7. ティーチングアシスタント(TA)

     今回は遠隔講義であり、受講者側に講師がいない。そこで受講者側にはティーチングアシスタント(TA)を配置した。通常の対面の講義でも、実習が組み込まれた講義では、TAが講師の補佐的な仕事をする場合が少なくない。遠隔講義を行う際、講義の進行、機器の調整や切り替えなどに関してTAが必要である。特に円滑に遠隔講義を進行するためには、受講者の足並みや反応など、その様子を講師に伝えるということが必要となる。
     TAに求められるスキルとしては、PCリテラシーとネットワークリテラシーである。講師を行った経験は必要ない。



システム編

  1. 実証実験システムの構成

    1.1 実験システム及び特徴

     移動困難な高齢者でも、通信回線(インターネット)を通じて、遠隔の講師からインターネットの利用方法を容易かつ効果的に学習することが可能なテレラーニングシステムを構築した。
     本システムの特徴は、次のとおりである。

    1.2 システム仕様

     実験システムを構築するために考慮した事項は、次のとおりである。

    (1)条件
     a) 主な環境条件

     b) 実験システムで必要とされる主な機能

     c) 構築において考慮すべき事項
     システム構築では、映像品質、遅延、演算処理、運用経費の最適なバランスを満たすことに配慮する必要があり、具体的には次のとおりである。

    (2)システム仕様
     表1表2に実験システムで用いた機器、主なソフトウェアの特徴と走行環境を示す。システムを実現する上で考慮した主な点は、次のとおりである。

     a) 機器の選定
    現行の普及状況を勘案し、Windows 機器で実施した。この場合、質の高いフリーソフトウェアを活用できることも期待される。

     b) 映像配信ソフトウェアの選定
      映像のエンコーダ、配信、再生ソフトウェアの選定では、以下を考慮した。

     実験には、VDOLive システムを選定した。
     VDOLive システムは14.4 kbps以上の回線速度で動作保証をしており、最少ユーザ数(ストリーム数)が少ない低価格の製品も準備されている。
     品質、動作、性能を確認したところ、簡易動画(5フレーム/秒)より高い7フレーム/秒でも、伝送データ量は 20 kbps 程度で、品質も講義に支障を及ぼすことはなかった。

     c) 通信回線
     講師側と受講者側をつなぐ通信回線は、経済性等を考慮し、インターネットを利用した。インターネット(プロバイダ)の選定では、以下を考慮した。

     講師側でリアルタイムでエンコードし、受講者側に送信するデータ量は、講師の動きが比較的少ないことからテレビ会議ほどの品質は求められないが、最低でも20〜30 kbps 確保される必要がある。
     調査、実測により、これらの条件を満たす候補として 、月額数万円程度の定額料金(常時接続)で、最大伝送速度が128 kbps のインターネット(プロバイダ)を選定した。実効上の伝送速度の実測では、30〜80kbpsの結果が得られた。

    1.3 機器の構成と準備

     図1に実証実験システムの構成と各PCにインストールしたソフトウェアを示す。

     実証実験で用いた主な機材は、受講者側は、ネットワークサーバ、VDOLiveサーバ(ティーチングアシスタント(TA)用PC)、プロジェクタ、スクリーン、スピーカ、ビデオカメラ、マイク及び受講者用PC10台である。一方、講師側は、講師用PCが2台、スピーカ、ビデオカメラ及びマイクである。
     さらに受講者側と講師側には、ネットワークに繋ぐためのルータ及びハブを用意し、ルータ及び上述の機器(ネットワークサーバ、VDOLiveサーバ、受講者用PC10台、講師用PC2台)に対して、IPアドレスを割り付けた。
     なお、受講者側のサーバを2台及び講師用PCを2台にした理由は、PCにかかる負荷を分散し、システムとしての安定性を確保するためである。
     映像・音声を配信するVDOLiveサーバ及び映像・音声をリアルタイムにエンコードするためのリアルタイムエンコーダ(講師用PC1)については、それぞれ単体で用意し、PCにかかる負荷の分散をはかった。

    (1)受講者用PC
    a) ハードウェア
     講義映像と音声を受け取るには、基本的なPC構成(CPU、メモリ、HD、モニタ)にサウンドボード(最近では、PCに標準装備されている場合が多い)を付加する必要がある。
     また、受講者の映像の取り込みには、ビデオキャプチャボード(ビデオカメラからの映像等をPCに取り込むために必要。カメラによってはボードが不必要なものもある)の付加が必要である。
     次のb) に示すアプリケーションの動作環境として、メモリが32MB以上、HDが1GB以上、Pentium100MHz以上プロセッサの搭載が必要である。なお本実験では、滞りなく講義が行えるようにするため、仕様にゆとりをもたせて準備した(表1参照)。

    b) アプリケーション
     現行の普及状況を勘案して、OSはWindows95以上、WebのViewerにはInternet Explorer、MailソフトについてはOutlook Expressを用意した。
     VDOLivePlayer(講義映像・音声の受信と表示に利用)及びNetMeeting(講師との対話に利用)は、無償で提供されており、インターネット上からダウンロードするか、雑誌等のCD-ROMで提供されているものを利用すれば良い。
     また本教材として用いたアプリケーションは、入手が容易であるものを選定した。したがって、上記のように無償提供されているものや、通常PCに装備されているものを使用アプリケーションとした。
     表3に、今回用いたアプリケーションを示す。

    c) PCの設定
     受講者が分かりやすく操作できるように、PC起動後の画面(デスクトップ)に、使用するアプリケーションのショートカットアイコンを作成する。その画面例を図2に示す。

     Internet Explorerでは、表示しているWebページのショートカットアイコンを、デスクトップに作成する機能がある。例えば、電子教材(WebのViewerで閲覧して利用)のトップページのショートカットアイコンを作成する場合、以下のようにする。
     所定のWebページを表示させた後、「ファイル」→「送信」→「ショートカットをデスクトップへ」を選択すると、ショートカットアイコンが作成される(図3)。

    d) アプリケーションの設定
    講習を滞りなく進めるために、予め繋ぎ先などを設定する必要がある。図4図5に、NetMeetigとInternet Explorerの設定の画面例を示す。

    ・ NetMeetingの設定
    「通話」→「通話先」を選択。アドレス部分に、繋ぎ先のIPアドレスを入力する。
    (例;講師用PCのIPアドレス)

    ・Internet Explorerの設定
     「表示」→「インターネットオプション」を選択。「全般」タブの中から、ホームとなるURLを入力する。
     (例;検索エンジンのURL、リンク集のURL)

    (2)講師用PC1(講義映像・音声を発信するためのPC)
    a) ハードウェア
     講師の講義映像と音声を取り込むため、基本的なPC構成(CPU、メモリ、HD、モニタ)にサウンドボード、ビデオキャプチャボードのようなハードウェアを付加する必要がある。
     映像と音声をリアルタイムにエンコードするVDOLiveリアルタイムエンコーダを起動するためには、Pentium133MHz以上プロセッサの搭載が、最低必要である。
     システムとして講義を滞りなく実施することを重視した場合、メモリ及びCPUは余裕をもって用意した方が良い。

    b) アプリケーション
     今回、実験で用いたVDOLiveリアルタイムエンコーダは有償で提供されており、VDOJapanまたは販売代理店から入手可能である。
     ・VDOJapan   ;http://www.vdo.co.jp/
     ・販売代理店一覧;http://www.vdo.co.jp/reseller/index.html

    c) PC及びアプリケーションの設定
     VDOLiveリアルタイムエンコーダを設定する。なお本実験では、これに関する特別の設定は行わなかった。

    (3)講師用PC2(講師と受講者等が1対1で対話、又は受講者会場を観察するためのPC)
    a) ハードウェア
     講師の講義映像と音声を取り込むため、基本的なPC構成(CPU、メモリ、HD、モニタ)にサウンドボード、ビデオキャプチャボードのようなハードウェアを付加する必要がある。
     このPCの仕様は、受講者用PCと同様に考えて良い。なお本実験では、念のため、仕様にゆとりをもたせて準備した(表1参照)。

    b) アプリケーション及びPC等の設定
     NetMeetingによる受講者側との対話では、受講者側のPCの状況の把握及びアプリケーションの共有を行うため、受講者用PCと同様のアプリケーションを準備し、設定を行う。ついては(1)受講者用PCを参照されたい。

    (4)VDOLiveサーバ(講師用PC1から発信された映像と音声を受信し、受講者用PCに対しての配信を行うPC。TA用PCと兼用)
    a) ハードウェア
     受講者用PCと同様に、講義映像と音声を受け取るには、基本的なPC構成(CPU、メモリ、HD、モニタ)にサウンドボードを付加する必要がある。なおTAの映像を取り込むためには、ビデオキャプチャボードが必要である。
     次のb) に示すアプリケーションの動作環境として、メモリが32MB以上、HDが1GB以上、Pentium100MHz以上プロセッサの搭載が必要と考えられるが、VDOLiveサーバには、講義映像と音声の蓄積と、蓄積された講義映像と音声への複数の同時アクセスが考えられるため、メモリ、HD及びCPUは余裕をもって準備する方がよい。

    b) アプリケーション及びPC等の設定
     本PCはサーバ機能としての役割があるため、OSはWindowsNTを用意した。
     VDOLiveサーバのインストール及び設定を行う。なお本実験では、これに関する特別の設定は行わなかった。
     また、TA用PCの画面は、プロジェクターを用いて受講者がその画面を見るため、受講者用PCと同様のアプリケーションを準備し、設定を行う。ついては(1)受講者用PCを参照されたい。

    (5)ネットワークサーバ(Webの閲覧・メールの送受信、電子教材の配信などのネットワークを管理するためのPC)
    a) ハードウェア
     ネットワークの安定性を考えると、メモリ及びCPUは余裕をもって準備した方がよい。

    b) アプリケーション及びPC等の設定
     本PCはサーバ機能としての役割があるため、OSはWindowsNTを用意した。
     DNSサーバ、メールサーバ、Webサーバ、FTPサーバのインストール及び設定は、本実験では、これに関する特別の設定は行わなかった。  電子教材は、WebのViewerで閲覧出来るように、htmlファイルを本Webサーバ上に置いた。

  2. 実証実験システムと情報の流れ

    2.1 システムと機能の組合せ

     実験システムは、1.2 で示す8つの機能(リアルタイムの同報機能、蓄積機能、1対1双方向配信機能、アプリケーション共有機能、教材閲覧機能、再生機能、電子メール機能、ホームページ機能)を実現し、これらの機能は組み合わせて用いる。
     その場面は大きく、一斉講義、自習と質問、情報受発信場面に分かれる。

     表4に、上記の場面の使用ソフトウェアを示す。なお参考として、講師なし学習、外部からの学習場面で使用されるソフトウェアも示す(実証実験の発展型/部分的活用事例)。

     使用されるソフトウェアは映像・音声の配信・再生ソフト(VDOLiveリアルタイムエンコーダ/サーバ/Player)、1対1双方向配信ソフト(NetMeeting)、WebのViewer、Mail ソフトである。受講者用PCで使用されるソフトは、最初からシステムに組込みされている、または、無償提供されているものである。
     各場面で使用されるソフトウェア資源は、これらのソフトウェアと蓄積映像・音声、電子教材だけである。
     講師の映像・音声(VDOLivePlayerを起動)と電子教材は、WebのViewerで表示され、特別なプログラムをインストールする必要はない。
     なお、NetMeetingにより講師が対話できるのは、同時には一人の受講者又はTAのみである。

    2.2 情報の流れ

     図6に、表4の一斉講義、自習と質問、情報受発信の3場面(実証実験の全場面)をあわせた情報の流れと使用されるシステムの構成要素を示す。

    1 ビデオカメラで撮影された講義映像・音声は、講師用PC1のVDOLiveリアルタイムエンコーダにより符号化され、講師用PC1に一時的に蓄積されると同時に、インターネット経由で VDOLiveサーバに送信される。
    1 VDOLiveサーバは、受信した映像・音声を受講者用PCにマルチキャスト(同報)する。
    1 受講者用PCでは、VDOLivePlayer で講義映像・音声がリアルタイムに再生される。ネットワークサーバ上の電子教材はWebのViewerにより閲覧できる。
    1 講師用PC1に一時的に蓄積された講義映像・音声は、講義の合間にVDOLiveサーバに送られる。
    1 講師は、講師用PC2から電子教材を閲覧することもできる。
    1 演習や自習の時、講師はNetMeetingにより、受講者又はTAと対話したり、任意のアプリケーションを共有したり、会場風景を観察できる。
    1 演習や自習の時、受講者はVDOLivePlayer で蓄積映像・音声を再生し、ネットワークサーバ上の電子教材をWebのViewerで閲覧する。
    1 演習や自習中に質問がある場合には、NetMeetingを利用して講師に問い合わせる。
    1 ホームページの閲覧や電子メールの送受信の実習の時は、WebのViewer やMail ソフトにより外部のサイトやPCと通信する。

    2.3 システムの操作方法

     一斉講義、自習と質問、情報受発信の3場面における、本実験で行った主な操作方法について述べる。

    (1)一斉講義
     予めVDOLiveサーバ(TA用PC)、ネットワークサーバ等の機器の電源を入れておく。
    [講師の操作]
    1 講師用PC1のVDOLiveリアルタイムエンコーダを起動する。メニューからStartを選択し、カメラとマイクに向かって講義を開始する。なお、VDOLiveリアルタイムエンコーダからの映像は、予め設定した受講者側のVDOLiveサーバに送信される。

    [TAの操作]
    2 VDOLiveサーバ(TA用PC)のVDOLivePlayerを起動すると、講師側からの映像と音声が受信される。TA用PCの画面は、プロジェクタを通して講習会場のスクリーンに映し出される(図7)。

    [受講者の操作]
    3 PC画面の「教科書」アイコン(Internet Explorer のショートカットアイコン)をダブルクリックして、電子教材を呼び出す(図8)。

    同様に「講師の映像」アイコン(Internet Explorer のショートカットアイコン)をダブルクリックして、VDOLivePlayerによる講義映像を呼び出し、電子教材と講義映像の、大きさ及び位置を適当な状態に調整する(図9)。

    4 講師の指示にあわせて、電子教材に組み込まれているボタンやリンク箇所をクリックし、電子教材を閲覧する(図10)。

    [講師の操作]
    5 VDOLiveリアルタイムエンコーダにより講師用PC1には、講義映像・音声がAVIファイルとして蓄積される。ファイル名を変更し、講義の合間に、受講者側のVDOLiveサーバへFTPで転送する。
     FTPは、MS-DOSのコマンドを用いれば送れるが、WS_FTP等のFTPソフトウェアを用いる方がより簡便である。

     (例)MS-DOSのコマンドを利用する場合、
     スタートメニューから「MS-DOSプロンプト」を選択。画面が表示されたら、ftpコマンドでFTPサーバのIPアドレス、ユーザ名、パスワードを入力し、受講者側と繋げた後、所定のディレクトリにputコマンドでファイルを転送する(図11)。

    (2)自習と質問
    a) 自習
    [受講者の操作]
     PC画面の「教科書」アイコンや「講師の映像」アイコンをダブルクリックして、電子教材や講義映像を呼び出す。次に、htmlによって組み込まれているボタンやリンク箇所をクリックして、電子教材を閲覧したり、VDOLivePlayerで講義映像や音声を再生したりする(図12)。

    b) 質疑応答
     予め講師側と受講側のPCのNetMeetingを起動しておく。
    [受講者またはTAの操作]
    1 「通話」ボタンをクリックし、講師用PCのIPアドレスを選択する。

    [講師の操作]
    2 受講者側からの呼び出し音が鳴り、ボタンが表示されるので、「応答する」ボタンをクリックする(図13図14)。

    図15のような、NetMeetingによる映像と音声を用いた対話が開始される。

    (3)情報受発信
     受講者は、電子教材またはVDOLivePlayerを使いながら、Internet Explorer (WebのViewer)でホームページの閲覧、あるいはOutlook Express(Mail ソフト)で電子メールの送受信を行うことができる。図16に電子教材を表示させながら、ホームページを操作している画面を示す。
     なお、ホームページの操作にはURLを入力する場合もあるが、本講習では、予めいくつかのURLを登録したリンク集を準備し、受講者はリンクをクリックすることで、ホームページを閲覧できるようにした。

  3. 実証実験システムを利用した活用事例

     実験では8つの機能をセットで実現したが、これらの機能の一部だけでも実利用可能である。その場合の必要な機器類、ソフトウェアについては、表4を参照されたい。
     その例として、一斉講義、自習、情報受発信の個々の場面、講師なし学習、外部からの学習の各場面について、使用するシステム構成要素と情報の流れを、図17図18図19図20図21に示す。なお、これらは、今回実験で用いたシステムと比較した図になっている。

     基本的には、各場面で使用されるシステム構成要素と情報の流れは図6のサブセットとなる。図中、グレイアウトされているPCは使わない(不要である)ことを意味する。

    (1) リアルタイムでの一斉講義
    1 ビデオカメラで撮影された講義映像・音声は、講師用PC1のVDOLiveリアルタイムエンコーダにより符号化され、講師用PC1に一時的に蓄積されると同時に、インターネット経由で VDOLiveサーバに送信される。
    2 VDOLiveサーバは、受信した映像・音声を受講者用PCにマルチキャストする。
    3 受講者用PCでは、VDOLivePlayer で講義映像・音声がリアルタイムに再生される。ネットワークサーバ上の電子教材はWebのViewerにより閲覧できる。
    4 講師用PC1に一時的に蓄積された講義映像・音声は、講義の合間にVDOLiveサーバに送られる。
    5 講師は、講師用PC2から電子教材を閲覧することもできる。

    (2) 蓄積映像・音声の再生と教材による自習と質問
    1 ビデオカメラで撮影された講義映像・音声は、VDOLiveサーバに蓄積されている。
    2 受講者用PCでは、VDOLivePlayer で蓄積映像・音声が再生される。ネットワークサーバ上の電子教材をWebのViewerにより閲覧することもできる。
    3 自習中に質問、等がある場合には、NetMeetingによりTAのPC経由で(または直接)講師とアプリケーションを共有したり、対話をしたりする(講師との対話は、同時には一人しかできない)。

    (3) 公開情報の閲覧と情報発信
    1 受講者は一斉講義、または、蓄積映像・音声や電子教材の自習によりWebのViewer や Mail ソフトを学習済みであり、次に実習にうつる場面である。
    2 ホームページの閲覧や電子メールの送受信の実習時には、WebのViewer やMail ソフトにより外部のサイトやPCと通信する。

    (4) 講師なし学習
    1 蓄積映像・音声は VDOLiveサーバに格納されている。
    2 電子教材はネットワークサーバに格納されている。
    3 受講者用PCでは、VDOLivePlayer で蓄積映像・音声が再生される。また、電子教材をWebのViewerにより閲覧できる。

    (5) 外部PCからの学習
    1 外部のPCから蓄積映像・音声や電子教材にアクセスして個人学習するためには、受講者用PCと同様、VDOLivePlayer、WebのViewer、Mail ソフトをインストールする必要がある。
    2 蓄積映像・音声へはVDOLivePlayer で、電子教材へはWebのViewerを介してアクセスできる。


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