情報通信21世紀ビジョン
-21世紀に向けて推進すべき情報通信政策と実現可能な未来像-
(平成9年6月17日 答申)
答 申 概 要




第1章 大競争時代の情報通信の役割

 世界経済が大競争時代を迎え、国境を越えた企業活動が活発化する中、我が国は、基幹産業が成熟化し、事業環境が魅力に乏しいといった経済構造、国民が真の豊かさを実感できない社会等の問題を抱え、社会経済システム全般にわたる変革と創造が急務となっている。このような状況の下、情報通信は、国民、企業、政府等あらゆる経済社会主体の活動を従来と異なった形に再構築し、我が国の経済社会システムを横断的に変革するツールとしての役割を果たすものと位置づけ、以下の政策を総合的に推進していく。



第2章 総合的な政策対応

1 情報通信行政の役割
 従来の行政の在り方に見直しが求められている今日、情報通信行政には、「明確なビジョンの提示」、「情報通信基盤の整備」、「ダイナミックな競争の促進」、「社会的公平性の確保」、「グローバルな政策展開」という五つの役割が求められる。

2 第2次情報通信改革の推進
(1)  電気通信市場の改革
 電気通信市場における一層の競争を促進するため、規制緩和、接続の円滑化、NTTの再編成を三位一体で実施し、さらに21世紀に向けた「次の段階」として、料金のインセンティブ規制の導入、番号ポータビリティの導入、接続ルールの見直し、加入者系無線アクセスの整備推進等の施策を推進すべきである。

(2)  デジタル化による放送革命
 各放送メディアが普及しているほとんどすべての世帯において2010年までにデジタル化されていることを目標とする。具体的には、地上放送については2000年以前にデジタル放送が開始できるよう制度整備等を進めることを目標とする。またCATVについては1997年度中にデジタルCATV放送の開始を目指し、衛星放送についてはCS(通信衛星)によるデジタル放送の今後のチャンネル数の拡大と、2000年頃放送開始予定のBS−4後発機によるデジタル放送の開始を目指す。
 また、放送市場に新たなダイナミズムを創出するため、マスメディア集中排除原則の在り方の検討、柔軟な免許制度の検討、メディア特性に応じたハード・ソフト分離の検討といったデジタル化に対応した放送政策を推進すべきである。

(3)  通信・放送の融合
 通信・放送の融合の一層の促進のため、
 通信と放送の中間領域的サービスへの対応として、「公然性を有する通信」に対する自主的なガイドラインを中心とするルールの策定、技術的対応策、国際的連携による対応策の確立、及び「限定性を有する放送」に対するメディア特性に応じた従来の番組基準等の規定の規制緩和と視聴者保護対策の実施
 ネットワークの共用化を一層推進していくために、「通信ネットワークを利用したCATV」の実現のためのメディア特性に応じたハード・ソフト分離や公正有効競争条件の検討、「CATV網を利用した通信」に資する技術の開発、及び周波数の共用化技術の開発
 端末の共用化への対応として、通信・放送融合型のマルチメディア端末等の開発・標準化
 を進めていく。

(4)  ニュービジネスの振興
 成功払い報酬制度(ストックオプション制度)の活用などの人材確保の環境整備、投資事業組合方式の活用などによる資金調達の円滑化等により、情報通信ニュービジネスの振興を図る。

3 ネットワークインフラの整備
 2010年までに、有線系と無線系、移動系と固定系のデジタル化された各種ネットワークインフラをシームレスに接続し、放送のデジタル化と併せて「トータルデジタルネットワーク」を構築する。
 これにより、情報通信の利用者は、個々のネットワークインフラの特性に制約されることなく、いつでも、どこでも、誰とでも、世界中共通の端末で、画像、超高速データ伝送等の大容量マルチメディアサービスを受けることが可能になる。
 トータルデジタルネットワーク構築のため、固定系ネットワークインフラについては、加入者系光ファイバ網の2010年の全国整備完了、加入者系無線アクセスシステム等の実用化を図るとともに、移動系ネットワークインフラについては、2000年までに世界共通の次世代携帯電話システム(IMT-2000/FPLMTS)の実用化、2002年までにマルチメディア移動アクセス(MMAC)の実用化、2010年までに次世代LEOシステムの実用化等を進めていく。

4 アプリケーションの開発・普及
 2000年までにテレワークの公務員への積極的な導入の推進、遠隔医療の実証実験、高速道路におけるノンストップ自動料金収受システムの実用化等、2005年までに本格的ワンストップ行政サービスの実現、ホームエデュケーションシステムの実現、災害・危機管理情報通信システムの構築等、2010年までに自動運転システムの本格化など、各種アプリケーションの開発・普及を推進する。その際、個々の分野に精通している各関係省庁が相互に連携を図りながら、政府が一体となって取組を行うことが重要である。

5 創造的研究開発の推進
 研究内容の充実を図るため、産学官協力の下、全光通信技術、広帯域マルチメディア移動通信技術、ヒューマン・コミュニケーション技術等、ネットワークインフラ整備とアプリケーション開発・普及を支えるプロジェクトを重点的・計画的に推進するとともに、基礎・学際領域の研究開発を推進すべきである。
 また、国立試験研究機関等の行う研究開発に対する外部評価の実施、国際グラントの拡充、地域提案型研究開発制度の導入等により、研究開発体制を整備する。
 さらに、標準化を推進するため、アジア・太平洋電気通信標準化機構(ATSI)の設立を目指すとともに、標準創造型研究開発制度を創設すべきである。

6 グローバル化の推進
 情報通信事業者間の国境を越えた連携・競争の活発化、全地球規模での情報通信基盤整備の必要性等の観点から、電気通信自由化交渉の先導などによる自由化の推進、開発途上国の電話普及率の4倍増などを目標とした情報通信基盤整備の支援、国際放送大学(仮称)の設立による情報通信技術者の育成、アジア地域における情報受発信の一翼を担うための情報通信ハブの構築等を推進すべきである。

7 情報通信高度化への環境整備
 情報通信の高度化に伴い発生する反社会的な情報流通、プライバシーの侵害、ネットワーク犯罪、地域間や個人間での情報格差等、新たな社会問題への対応が不可欠である。このため、情報通信サービスに対する苦情処理・相談体制等の充実、ガイドライン策定や必要な法制度の検討など利用者保護のための制度の整備、認証制度の確立、不正アクセス防止技術や暗号技術等の技術開発・標準化、公共機関を利用した情報リテラシーの涵養などの対策を講ずる。高度な情報通信の利活用を想定していない法制度や社会慣習の各省庁における見直しも一層強化する必要がある。
 また、すべての国民が等しく高度情報通信社会の恩恵を享受できる環境を整備する観点から、工業社会を前提として構築された現行法制度全般を見直すことが不可欠である。このため、電子商取引の普及、認証制度の確立、セキュリティ対策、暗号政策の確立、プライバシー保護等を図るため、関係省庁が連携して「サイバー法」(高度情報通信社会を実現するための環境整備に関する法律)の可能性の検討が必要である。なお、法制度の検討を行う場合には、規制緩和の観点を踏まえつつ、急激な変化に十分対応していける柔軟な制度とすることが求められる。



第3章 21世紀初頭の未来像

1 産業経済
(1)  情報通信産業の動向
 第2次情報通信改革の進展により、通信・放送分野において競争が拡大し、さらに事業者間の業務提携等の構造変化が起こることにより、これまでの通信・放送が新たな枠組みに変化していくと考えられる。

(2)  経済フロンティアの拡大

  ア 通信・放送産業の設備投資額
 1996年度の通信・放送産業の設備投資実績見込額は約4.7兆円であるが、新たな無線系サービスの実用化により、2010年には約7.2兆円になると見込まれる。


(単位:億円)
事   項 1990年 1995年 2000年 2005年 2010年
通信・放送産業の設備投資額  26,815  38,068  50,276  62,329  72,141
うち新たな無線系のサービスの実用化分  0 0 3,253 9,260 24,157


  イ 情報通信分野の市場規模
 1995年の約29兆円から2010年には約125兆円にまで拡大するものと見込まれる。


(単位:億円)
事   項 1995年 2000年 2005年 2010年
情報通信分野の市場規模  286,187  477,371  795,090  1,245,328
うち新たな無線系のサービスの実用化分  0 24,084 62,086 111,420


  ウ 情報通信分野の市場構造
 上記市場規模の構成要素を「コンテント」、「ディストリビーション」及び「プラットフォーム」の3者に分類し、1995年と2010年の市場構造を比較すると、映像配信サービス等を中心とする「コンテント」の比重が33.5%から55.1%へと増大するもの見込まれる。



  エ 情報通信高度化と雇用
 情報通信分野の市場規模が1995年の約29兆円から2010年の約125兆円に拡大するのに伴い、新たな創出される雇用者数を試算すると、244万人程度になるものと見込まれる。
 一方、アンケート調査によれば、事務処理の迅速化、組織のフラット化等を目的とした情報化投資に伴い、企業が中間管理職や事務職に求める役割が変化しており、今後5年間に中間管理職及び事務職の減員を予定する企業が5割を超える一方、研究・技術職及び営業職の増員を予定する企業が4割となっている。

(3)  企業活動の効率化
 情報通信の利活用を通じて、以下のような企業活動の効率化が期待できる。

  ア CALSの効果
 CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)の導入によって電子化された情報が共有されるようになると、従来リレー的に遂行されてきた複数の業務が同時並行的に処理されるようになるとともに、製品情報の共有化による問題解決への即応やメンテナンス時の情報検索の効率化等が図られる。

  イ POSシステムの効果
 販売・流通業者の間でPOS(販売時点情報管理)システムが普及し、商品管理・選別に係る情報収集、判断のための時間が短縮される。これにより、商品の過剰な在庫が減少するとともに、マーケティングに係る顧客情報の収集・分析事務等も効率化することが期待できる。

  ウ ITSの効果
 ITS(高度道路交通システム)の開発・普及の一環として、全国の高速道路にノンストップ自動料金収受システムの普及が十分に進むと、現在、渋滞発生箇所の35%を占めている料金所における渋滞の解消が見込まれる。

(4)  高コスト構造の是正
 移動通信料金を除く電話等の通信サービスの利用に対する現在の世帯平均支出額は月間約7,400円となっているが、これと同程度の料金で利用可能なマルチメディア通信サービスの水準を、マルチメディア時代におけるネットワーク構成及びコストに関する一定の条件の下で想定すると、2010年には、20Mbpsの回線(現在の標準テレビ画像3チャンネル分余に相当)が、国内であれば通信距離とは無関係に定額7,800円程度で利用可能になると試算される。
 マルチメディア通信サービスの利用料金が低廉化すると、従来、電話サービスや数十〜数百kbps程度の回線によるデータ通信サービスを利用してきた企業においても、マルチメディア通信を活用した各種アプリケーションが導入・利用されるようになり、コスト削減が可能になるものと考えられる。

2 国民生活
 生活面においては、情報通信の利活用により以下の例のように、ゆとりの拡大、知的活動の広がり、生活環境の保全等を図ることが期待される。

(1)  行政サービス
 引越に伴う公共的機関等への各種の行政手続き等が、自宅や企業の端末、郵便局その他公共施設等の共用端末を用いて24時間いつでも一元的に行うことができるようになる。これにより行政手続き等への所要時間は大幅に削減され、行政サービスの利便性も大幅に向上する。

(2)  教育
 高速・大容量のネットワークが各家庭まで結ばれ、マルチメディアの特性を活かした多彩な講座が幅広い分野にわたって提供され、オンデマンドで利用可能になると、利用者は自らの興味や学習状況に応じた講座を自由に選択することができるようになり、家庭で生涯学習を行う者が増加することが期待される。

(3)  医療
 患者データを電子化することによって情報の共有化が図られるようになり、重複診療の削減など医療サービスの効率性が向上する。具体例として、ICカードを導入して兵庫県五色町では、同カードシステム加入者の1件当たりの医療費が未加入者に比べ、外来医療費で14〜50%程度、入院医療費で13〜35%程度低いという事例がある。

(4)  就労・社会参加
 パソコン通信等を使って自宅に居ながらにして業務を行えるテレワークは、高齢者・障害者の社会参加の機会を創出し、働いている男女双方にとっても仕事と家庭を両立できる環境を創出する。

(5)  環境負荷低減効果
 我が国のテレワークが今後米国並みの推移で普及し、総テレワーク人口(在宅勤務またはサテライトオフィス勤務を頻度を問わず実施している人口)が2010年には2,080万人に拡大すると仮定すると、国内の総CO2排出量が約0.3%削減され、ITSが普及すれば、輸送効率の改善と渋滞の解消により、国内総CO2排出量の2.0%を削減するポテンシャルがある。